『99.9%は仮説 思い込みで判断しないための考え方』光文社新書
飛行機はなぜ飛ぶのか?科学では説明できない!
あたまが柔らかくなる科学入門。

竹内薫:著 
重版出来 40万部突破。みなさまの御声援に感謝致します。

光文社
定価(税込):735円 ISBN:978-4-334-03341-5
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◆TOPICS
NHKサービスセンターよりiTunes版オーディオブック「99.9%は仮説」が発売されました。(価格:900円)
 ⇒iTunes Music Storeにアクセスして『99.9%は仮説』または『竹内薫』で検索してください。
   プロローグとエピローグは竹内薫が朗読しています。
  
※オーディオブックのダウンロードで1位となりました。(2006年8月11日)
・「地図が好き」マガジン月刊「地図中心」6月号に取り上げられました。(評者:小白井亮一氏)
『プレイボーイ』誌5月22日号「名倉潤の勝手に読みツッコミ!! 」』に取り上げられました。
『公明新聞 2006年4月17日号』に取り上げられました。
『新潮45 5月号』に取り上げられました。
『朝日新聞2006年3月26日号』読書面「ベストセラー快読」に取り上げられました。


「最近どうも頭が固くなってきたなあ」
そんなあなたにつける薬は“科学”です。文系理系を問わず、科学のホントの基本を知るだけで、たったそれだけで、あなたの頭はグニャグニャに柔らかくなるかもしれないのです。科学の基本……それは、「世の中ぜんぶ仮説にすぎない」ということです。思いこみ、常識、前例、先入観、固定観念……そういったものにしばられて身動きがとれなくなっている人っていますよね? 「なんでこんな簡単な話が通じないんだ!」ってイライラしますよね? そんなときは、気休めにこの本を読んでみてください。きっと、ものの考え方から世界の見え方まで、すべてがガラリと音を立てて変わるはずですから。

◆あなたの頭はどれくらい柔らかいですか? つぎの仮説にチャレンジしてみて下さい!
「麻酔はよく効く仮説」「百人一首カルタ仮説」「マイナスイオンはからだにいい仮説」「意識は続いている仮説」「世界誕生数秒前仮説」「殺人はこの座標で起きた仮説」「日本の海岸線は2400キロメートル仮説」



目次

プロローグ 飛行機はなぜ飛ぶのか? 実はよくわかっていない

第1章 世界は仮説でできている
(あたまを柔らかくする仮説1)「麻酔はよく効く仮説」

第2章 自分の頭のなかの仮説に気づく
(あたまを柔らかくする仮説2)「日本の海岸線は二四〇〇キロメートル仮説」

第3章 仮説は一八〇度くつがえる
(あたまを柔らかくする仮説3)「意識は続いている仮説」

第4章 仮説と真理は切ない関係
(あたまを柔らかくする仮説4)「マイナスイオンはからだにいい仮説」

第5章 「大仮説」はありえる世界
(あたまを柔らかくする仮説5)「世界誕生数秒前仮説」

第6章 仮説をはずして考える
(あたまを柔らかくする仮説6)「百人一首カルタ仮説」

第7章 相対的にものごとをみる
(あたまを柔らかくする仮説7)「殺人はこの座標で起きた仮説」

エピローグ すべては仮説にはじまり、仮説におわる

「あたまを柔らかくする仮説」の答え

もっと知りたい人のための参考文献

本当のエピローグ



特設ページ 目次

「仮説」とはなんでしょう?

まだまだ続く、「仮説」の世界(その1)

まだまだ続く、「仮説」の世界(その2)

まだまだ続く、「仮説」の世界(その3)

まだまだ続く、「仮説」の世界(その4)

まだまだ続く、「仮説」の世界(その5)

補足事項1

補足事項2

補足事項3

補足事項4

補足事項5

補足事項6(重要!)

補足事項7




■「仮説」とはなんでしょう?


 たとえば、ここ数年、私が遭遇した仮説には、次のようなものがあります。

 ・ヒトES細胞の快挙
 ・ライブドアが一兆円企業に躍進
 ・宇宙は膨張しているが宇宙定数(アインシュタイン)はゼロ

 この3つとも、あっという間に180度、ひっくり返ってしまいました。
 あたりまえです。
 人間が考えることは、畢竟、仮説の寄せ集めにすぎないからです。でも、そのあたりまえのことを、われわれは忘れがちです。そして、忘れていると予期せぬ形でガツンとやられるのです。

 学校でイギリス人の先生が生徒たちに「アンケートの質問票」をつくる宿題を出したことがありました。相手(大人)の素性を知るためのアンケートです。そのとき、われわれ日本人の生徒は、全員、質問項目に「ご職業は?」という項目を入れていました。すると、イギリス人の先生は、

「もし、この質問を見た人が職業をもっていなかったら、どう答えるのだ?」

 と意地悪な質問をしてきました。
 つまり、われわれの頭の中には、

「大人はみな職業をもっているものだ」

 という仮説が入っていたのです。
 そして、イギリス人の先生は、髭をなでながら、

「わが国には、貴族階級が存在し、彼らの多くは職業などもっていない。働かなくても生きていかれるからだ」

 と言ったのです。
 まあ、半分冗談だったのでしょうが、アンケートというきわめてありふれた問題にも「仮説」はどっぷりと根をおろしているのです。
 当時、私は、頭をガツンとやられた思いがしたものです。

 この宇宙が存在している理由にせよ、生命や意識の誕生にせよ、すべて仮説にすぎません。
 飛行機が飛ぶ理由についても、突き詰めて考えてみると、最後の最後は、ナヴィエ=ストークス方程式という非線形方程式に行き着きます。そして、その方程式を実際の飛行機の場合について「解く」ことは誰にもできません。
 それが複雑系といわれる問題の宿命です。
 あるいは、化学にしても、突き詰めて考えるのであれば、量子力学のシュレーディンガー方程式を解く問題に帰着されるはずですが、たとえば、こんなに簡単に思われる問題 (https://kaorutakeuchi.com/s_column/s_column24.htm)すら、つい最近になって、ようやく厳密に方程式を解いてシミュレーションが実行できたようなありさまなのです。
 教科書で誰もが習う「摩擦(https://kaorutakeuchi.com/s_column/s_column04.htm)」にしても話は同じです。その原理的なしくみは、ほとんどわかっていない・・・ようは、「仮説」にすぎないのです。

   ***

 飛行機の「仮説」に関連したURLを集めてみました。

 飛行機が「飛ぶ」原理については、

 http://www.aa.washington.edu/faculty/eberhardt/lift.htm

を読めば論争の大元がわかります。日本語では、

 http://hitomix.com/taruta/paperplane/

がおおいに参考になります。また、物理学からの説明は、

 http://ocw.kyoto-u.ac.jp/jp/common/course08/lecturenote_html/physics/air-plane.html

および、

 http://www.mech.miyazaki-u.ac.jp/kikuchi/t1.html
 http://vortex.kz.tsukuba.ac.jp/research/jet/results.html

をご覧ください。



■まだまだ続く、「仮説」の世界(その1)


●大陸移動「仮説」

 ウェーゲナーの大陸移動説は、なんと、高校の地学の授業で読みました。
 ふつうは高校の地学では、そんなに時間をかけてやる話題ではありませんが、私が通っていた学校は(いわゆる)実験校だったので、(ほとんど)東京教育大学出身の先生たちが、自由自在に授業を組み立てていたのです。
 いまでは誰でも常識として知っている大陸移動説ですが、ウェーゲナーが提唱してから、一時、学会のウケもよかった時期があったものの、やがて珍説・奇説として忘れ去られていきました。ようするに「トンデモ」とみなされてしまったわけです。
 
●アメリカ産牛肉は安全だ「仮説」

 BSEについては、最近読んだ参考書を一冊だけあげておきます。
・『プリオン説はほんとうか?』福岡伸一(講談社ブルーバックス)

●ペンタクォーク「仮説」

 ペンタクォーク「発見」の変遷については、
http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/3034754.stm
http://www.jlab.org/div_dept/dir_off/public_affairs/news_releases/2005/pentaquarks.html

をごらんください。

●百人一首=カルタ「仮説」

 百人一首の撰者は藤原定家である可能性が高いものの、異説もあります。ひとつだけたしかなことは、選ばれた当初、現在のような早取り合戦のためのカルタではなかった、ということだけでしょう。
 百人一首だけでは、そこに秘められた「意味」は読み取れませんが、瓜二つの歌集である百人秀歌と合わせてみると、そこには驚くべき数学パターンが出現します。
 そのパターンを始めに発見したのは太田明さんという民間の歴史研究家です。百人一首が「暗号」である、という説は、国文学の世界からは完全に無視されているようですが、その理由は、ウェーゲナーのときとほぼ同じといっていいでしょう。

https://kaorutakeuchi.com/mystery/100/trick.htm
https://kaorutakeuchi.com/mystery/100/lecture.htm

 現代人であるわれわれの思考が、藤原定家の「意図」を読み切れないとは、なんとも情けない話ですが、それこそが時代を超えた定家の天才性を意味しているのかもしれません。
 ふたつの歌集にきわめて明確な数学パターンがあることだけは確実です。
 でも、その本当の意味が、織田正吉さんや太田明さんらが主張する「方陣」なのか、そうでないのか、私には判断がつきません。(私は、もっと呪術的な意味合いだと予想しています。)
 百人一首に秘められた意味が読み取れないひとつの理由は、いまのところ、五人の歌仙については数学パターンが判明しているものの、二十五人の歌仙についてはパターンがわかっていないことです。(どなたかご存知でしたら教えてください!)
 百人一首の謎は、数学と国文学の両方の分野を股にかける研究者が出現するか、分野の垣根を超えた共同研究でも行なわれないかぎり、解かれることはないのかもしれません。

●ロボトミー「仮説」

 ロボトミー手術については、

http://nobelprize.org/medicine/articles/moniz/index.html
http://homepage3.nifty.com/kazano/lobotomy.html

をごらんください。



■まだまだ続く、「仮説」の世界(その2)


 今現在(2006年2月19日深夜)の話題で申し訳ありませんが、こんな仮説もあります。

●仮説 ホリエモンが武部幹事長の次男の銀行口座に3000万円を振り込んだ

 この仮説は、現在、グレーゾーンのまっただ中にあります。言い出しっぺの民主党永田議員の手にある「証拠」は、どこにでもある電子メールの文面であり、そこに日時や発信元が書かれていても、あまり説得力はないといえます。
 なぜなら、わたしの元にも、毎日、洪水のようにスパムメールが送られてくるからであり、その多くは、発信元が「わたし」自身になっていたりするからです。
 また、テレビ局が、メールの日時のホリエモンの行動を調べたところ、選挙中で、たまたま移動中だったことも判明しました。
 でも、これも、そもそも電子メールの日時などあてにならない以上、あまり信憑性はありません。
 とはいえ、このようなグレーな仮説からも、いくつもの帰結を導き出すことは可能です。

帰結1 仮にメールを偽造した人間がいたとしたら(これもあらたな仮説です!)、その人物は、少なくとも、すぐにバレないように、ホリエモンが演説をしている時間ではなく、移動していた時間帯をメールの日時にした

帰結2 そのような時間を精確に把握できる人間は限られている(誰だろう? メールの受け取り手? サーバーを管理していた人間? ホリエモンの秘書? なぜ情報を売った?)

帰結3 写真でさえ、いくらでも精妙に偽造できる時代に、メールだけで国会で質問をした永田議員の見識には疑問が残る

帰結4 仮にこの仮説が「白い仮説」で、東京地検特捜部が情報をリークしたのだとすると、それにはなんらかの目的があるはずで、政治的に得をする人々がいることになる

帰結5 この仮説が「黒い仮説」になると、民主党執行部は引責辞任を余儀なくされる

帰結6 この仮説が「白い仮説」になると、武部幹事長は辞任を余儀なくされる

帰結7 いずれにせよ、テレビと週刊誌は、しばらく話題に事欠かない

 まさか、自民党の守旧派が、武部追い落としを狙って放った「矢」とも思えませんが、話の奇妙さから考えると、そういった深読みもありでしょう。
 もちろん、功名を狙ったジャーナリスト(?)の単独行動である可能性も高いでしょう。
 仮説が仮説を呼び、さまざまな可能性を分析していくのが「仮説思考」の特徴です。ここに情報が加わってくると、帰結が絞られてくるので、「予言」すら可能になります。
 実際、世の中で成功している人間の多くは、常に、こうやって仮説のグレー度を敏感にキャッチしているように見受けられます。

***

●仮説 スリーヒットで購買につながる

 広告業界では有名な仮説です。
 消費者は、新製品の情報に接したとき、すぐにそれを買うことは稀です。広告にせよ店頭にせよ、新製品情報に初めて接したときには、とにかく情報を読み取るのに精一杯なのです。
 では、二回目にその情報に接したら買うかといえば、まだだめなのです。たいていの場合、二回目では、「ああ、これは前に広告で見た商品だ」と気づき、その内容の吟味に入ります。でも、吟味には時間がかかりますから、やはり、その場では購買には結びつきません。
 そして、三回目が運命の分かれ目になります。その商品の購買予備軍の人は、三回目の情報を受け取った時点で態度を決めるからです。同様に、もともとも、その商品の購買予備軍でない人は、三回目の情報の時点で買わないことに決めるでしょう。
「99・9%は仮説」が売れているかどうか、本屋さんに行って、それとなく本を見ている振りをして、張ってみましたが、どれほど多くの人が、一度手に取った本を元の場所に戻したことか!
 この行動は、3ヒット仮説でいえば、第一回目のヒットにあたります。このお客さんは、単に「おや? 新しい本があるゾ」という情報をインプットしただけなのです。
 このお客さんは、次に会社の同僚や、新聞雑誌などでふたたび「99・9%は仮説」の情報に接するまでは、このままの状態のはずです。
 ところが、別のお客さんが、単に手に取るだけでなく、しばらくの間、ペラペラと本をめくって読んでいました。この人は、実は、3ヒット理論の第二段階にまで進んでいるのです。なぜなら、中身を真剣に吟味し始めたからです。
 そもそも、内容に興味がないのであれば、長く立ち読みもしません。ですから、このお客さんは、おそらく、「99・9%は仮説」の購買予備軍に入っている人なのです。
 でも、やはり、本を置いて去ってしまいました。
 ところが、十分ほどたつと、この人は戻ってきて、迷わずに本を掴むと、レジに向かいました。(ありがとう!)
 つまり、きわめて短時間の間に、このお客さんは3ヒットして、本を買うことに決めてくれたわけです。
 なんだか、くだらない分析のように聞こえるかもしれませんが、本屋さんで、あちこちに「99・9%は仮設」がおいてあると、本屋さんの中を歩いている間にいつのまにか3ヒットする可能性が高まるので、それだけ本が売れる確率が高くなります。
 ですから、ベストセラーといわれる本は、必ず、何ヶ所にも分けておいてあるのです。
 この「3ヒット」仮説は、クラグマンという人が考え出した古典的な広告理論なのですが、どんなにいい商品も、消費者に最低3回広告が届かないと購買にまで結びつかない、という重要な意味をもっています。
 え? この仮説の検証?
 次回、何かを買うことを決めたとき、ご自分の行動で検証してみてください。(ただし、3回というのは、あくまでも目安にすぎません。数回、というのが本当なのでしょう)

***

 本の中では「世界誕生数秒前仮説」をとりあげましたが、(わたしの科学書の読者はすでによくご存知のように)こんな仮説もあります。

●仮説 われわれは時間の流れと空間の拡がりの中に生きている

 こんなにもあたりまえに思われることですが、現代物理学の最前線では、そもそも時間も空間も存在しない、という可能性が高まってきています。こんなあたりまえの仮説なのに、かなりグレー度が濃くなっているのです。
 にわかには理解しがたい話ですが、実をいえば、すでに哲学者のカントが、この仮説がいかにグレーであるかを指摘していて驚かされます。
 この話については、拙著「世界が変わる現代物理学」や「物質をめぐる冒険」や「時間論」をご覧ください。
 物理世界で重要なのは「速度」もしくは「加速度」であり、それを理解するために、人間が「時間」や「空間」という概念(あるいは幻想)をつくりだしたのかもしれないのです。




■まだまだ続く、「仮説」の世界(その3)


●宇宙動物園仮説

 すでにいろいろなところでご紹介していますが、わたしの好きな宇宙論の仮説に「宇宙の恰好はサッカーボールだった」という理論があります。
 宇宙の彼方から飛んでくる宇宙背景放射の精密な測定数値が根拠になっているのですから、あながちトンデモというわけにもいかないでしょう。
 たとえば、

 http://luth2.obspm.fr/Latestcom.en.html
 http://physicsweb.org/articles/world/18/9/3/1/PWcos4_09-05

あたりをご覧いただくと一目瞭然ですが、ようするに、宇宙は無限に大きくはなく、ポアンカレの12面体という、少し曲がったサッカーボールの中にあるというのです。
 ロケットで、この宇宙の境界(サッカーボールの面)に到達し、そのまま進むと、驚くべきことに、ロケットは、向かい合った逆さまの面から、ふたたび宇宙の中に戻ってきてしまいます。
 これは、ドーナッツの表面でぐるぐる回るのと同じ情況です。
 なんだか、結晶みたいでもあり、誰かが組み立てたようでもあり、興味深いとともにどことなく怖い宇宙です。
 この仮説のグレー度は、真ん中より少し黒・・・個人的には、そう捉えております。

・宇宙共生進化仮説

 この前、北野共生プロジェクトのオフィスで北野宏明さんに取材していて、雑談の際に北野さんの口から出てきたのが、
「宇宙の進化も共生が関係している可能性があるね」
という驚くべき仮説でした。
 生物の進化には二種類あります。

1 ふつうのダーウィン的な突然変異と自然淘汰
2 リン・マーグリス流の共生

 会社でいえば、1は、他の会社との競争や経済の変動といった圧力のもとで、会社内部の人員や組織が変化して、生き残ってゆく、という感じでしょう。
 2のほうは、ようするにM&Aです。進化するために、できあいの別会社と合併したり、吸収するパターンです。
 どうやら、生物の進化には、この2つのパターンがあるようなのです。

 では、宇宙はどうでしょう?
 宇宙の進化が生命の進化と同じかもしれない、というのは、量子宇宙論の発展により「赤ちゃん宇宙」もしくは「子宇宙」の可能性が信憑性をおびてきたことと関係があります。
 宇宙がひとつではなく、たくさんの子供を産み、その子供の宇宙が、さらに子供を産む。そういった量子宇宙の描像は、宇宙を一種の「生命」ととらえる可能性を示唆します。
 具体的には、子宇宙は、ブラックホールだと考えられています。われわれの親宇宙からみればブラックホールにすぎないのですが、その中の世界は、まったく別の次元へと膨張し続ける別の宇宙かもしれません。
 だとすると、われわれの宇宙において起きる、ブラックホールどうしの融合は、「あちら」の宇宙からしてみれば、別々の宇宙どうしのM&Aなのです。
 あ、もしかしたら、すでに、宇宙のM&Aの論文が出ているかもしれませんね。ちょっと検索してみよう・・・。




■まだまだ続く、「仮説」の世界(その4)


最近、一気に病院と医療に関する私の仮説を覆す事件がありました。
それまで、私が抱いていた仮説は、次のようなものです。

・病院に入院すると主治医が回診してくれる
・総合病院では検査結果がするに出る
・最近の医療はインフォームド・コンセントが大切にされるから、入院すると主治医からきちんとした説明がある
・長期入院になると病院が保険から受け取る金額が減るので、最近は、なるべく早期退院を目指す傾向がある

以下が、このような仮説が覆った事の顛末です。

***

実は、先日、K妻が入院したのです。

解熱剤を使わないと40度の高熱でしたし、下腹部の痛みが激しく、救急車を呼んで病院に行きました。

驚いたことに、搬送先の病院で出迎えた院長は、開口一番、
「私のこと知ってますか?」
と訊くのです。こんなおっさん知らねえよ・・・と不思議に思っていると、
「私の本を読んだことありませんか? 10年ほど前に600万部くらい売れたんだけど。ほら、そこの売店でも売ってますよ」
と続けるのです。

救急で担ぎ込まれた患者に対する言葉とも思えませんが、名札を見ると、<H雄>と書いてありました。

たしかに売店には、雑誌のほかには、氏の本だけがおいてあり、受付の向かいの壁には、氏の著書がすべてケースに入って飾ってありました。

H雄といえば、脱税とか週刊文春の告発記事で悪名高い人ですが、まあ、医療技術がしっかりしていれば、このさい入院はかまわない・・・そのとき、私は、そう判断してしまったのです。

***

入院には、私のほかにK妻の両親も付き添っていました。入院手続きなどを三人で分担していたのですが、どうやら、主治医はH雄ではなく、内科・産婦人科の女医さんになったらしく、K妻の母親が病状の説明を受けました。

さて、三階の大部屋に入院し、すぐにX線とCTスキャンをとってもらい、血液検査のために血液も抜かれ、抗生剤と電解質の点滴がはじまりました。

ホッと一安心です。

***

翌日、病院に行ってみると、K妻はベッドに寝ておりました。
「調子はどう?」
私が訊ねると、
「あんまりよくない」
と拗ねてみせましたが、あきらかに顔色がよく、快方に向かっていることを伺わせました。

***

しかし、その翌日も、さらにその翌日も、検査もなければ主治医も来ません。ただ、ひたすら、同じパターンの点滴だけがくりかえされるのです。

看護師さんたちは、ほとんどが笑顔でがんばってくれましたが、技量にはバラつきがあるようで、K妻の左腕は、いつのまにか痣だらけになっています。

これは、初日の入院時に点滴のための管を血管に入れるのに8回続けて失敗したためです。かなり痛そうです。

実は、K妻の母親も看護師なのですが、
「ふつう、二回失敗したら、別の看護師に代わってもらうのだけれど」
と驚いておりました。

患者の容態や、看護師の焦りにより、針がうまく血管に入らないことは、よくあるのだそうです。
しかし、何度も失敗を続けると、看護師はパニック度が増して、ますますうまくいかなくなり、患者の苦痛が酷くなるので、そういう場合は、別の落ち着いたベテラン看護師を呼んでくるのです。

なぜ、この病院では、それをしなかったのか・・・私の脳裏に疑念が湧きました。

***

私は毎日、自宅から電車を乗り継いで、病院に通い続けましたが、丸々4日、一度も主治医の顏を見ることはありませんでした。

何度も看護師さんに主治医との面会を要求しましたが、
「○○先生は、明日、出勤なさいます」
と言うばかり。その明日になっても、やはり、
「○○先生は、明日、出勤なさいます」
というオウムのような答えが返ってきます。

4日目に、私が語気を荒げて、
「先生は、病気で欠勤されているのですか? 非常勤なのですか?」
と訊ねると、
「いいえ、常勤です・・・他にも提携先の病院があるので、そちらを回られているものですから・・・」
と、ばつが悪そうに答えを濁すのです。実に意味不明です。

初日の検査はいったい何だったのでしょう?
X線もCTスキャンも血液検査も、K妻本人も家族も、まったく結果を知らされていません。

(この病院には、インフォームド・コンセントなど全くない。というか、看護師が少なすぎるし、入院患者は多すぎるし、医者の姿をまったく見ない)

付き添いの私の不安と不満は徐々に膨らんでゆきました。

***

同じ病室には、乳がんで手術を控えた患者さんが入院していました。
その女性は、保険の仕事をしているらしく、いろいろな情報を教えてくれました。

「この病院は、家賃が月に一千万だから、たくさん入院させたがるのよ。あたしの家を建ててくれた工務店が、この病院も建てたんだから、教えてもらったんだもの。それから、院長の頭は絶対にヅラよ」

まあ、どこまで本当かはわかりませんが、この話は、本当は変なのです。
なぜなら、医療報酬は、長期入院になると減る仕組みになっているので、現在、ほとんどの病院が、なるべく早期に患者を退院させて「回転率」を上げる努力をしているからです。

なぜ、この病院では、逆に長期入院をさせるのでしょう?

その理由も、この手術を控えた女性が教えてくれました。

「この病院で儲ける必要はないの。ここには同じ経営のリハビリ施設があって、長期入院の患者は、シャトルバスで、そこに通わされるのよ。そこは保険がきかなくて、会費をがっぽりとる仕組みなの」

うーむ、この病院は、ロビーだけが豪華で、病室も備品もボロボロで酷いものですが、リハビリ施設は最新鋭の設備がおいてあり、スタッフは美人ぞろいなのだそうです。

「院長は、いつも忙しくて回診にも来ないでしょう。いつも、あっちの施設に入り浸りで、きれいどこをはべらせてるってもっぱらの噂なのよ」

あくまでも伝聞情報にすぎず、私が自ら確認したわけではありませんが、この患者さんは、実際に乳がんの手術の前に、噂のリハビリ施設の一日無料体験に行ってきて、そのうえで、みんなにしゃべっているのです。

(つまり、この病院の集金源はリハビリ施設のほうであり、医者がいつもいないのは、そちらのほうに行っているからなのか? 厚生労働省を欺く錬金術ということか?)

私の疑念はさらに深まりました。

***

5日目の夕方、私はナースステーションに怒鳴り込んでいました。

とうとう、堪忍袋の緒が切れたのです。

入院時に検査を受けた以外、その検査結果も知らされず、今後の治療方針も示されず、毎日、ひたすら看護師が点滴を交換し続けるのみ。
K妻の絶食も5日となり、さすがに、限界が来ていました。

すると、当惑した顏の看護師は、
「本日、○○先生は、こちらに来ておりますが、2時半からはお会いできません。本日は当直ですので、5時には、こちらに参りますので、面談可能だと思います」
と言いました。

(ははあ、2時半からはリハビリ施設で仕事をしているのか・・・常勤というのは名ばかりで、病院に常駐なんかしていないわけだ)

私は5時になるのをじっと待つことにしました。

***

とうとう5日目の午後5時、私もK妻も、初めて主治医○○の顏を見ました。私は、もう少しで、
「あんた実在したんだね。仮想(バーチャル)医者かと思っていたよ」
と嫌みを言いそうになりましたが、病状説明を聞くまではと、ぐっと怒りをこらえました。

ナースステーションの隅っこに場所を移して、主治医による説明が始まりました。ここには、患者との面談の部屋もないようです。やれやれ。

「これがX線の写真です。これがCTスキャンの写真です。最初は腸閉塞の一歩手前という状態ですが、今は改善されているようです。(以下、K妻のプライバシー保護のために、病状の詳細については省略)」

私は、思わず質問してしまいました。
「先生、血液検査の結果はどうなったのです? 妻は、もう5日間も絶食しているのですが、いつ退院できるのです?」
すると、○○は次のように答えました。
「血液検査には二週間かかるので、まだ、結果が出ていません。ですが、それまで待っていては病気が進んでしまうので、見込みで抗生剤を投与しています。効果は出ていると思います。これから徐々に三分粥から始めて、1週間程度で退院の目処がたつのではないでしょうか」

ええ? 血液検査に二週間? なぜでしょうか。ここは総合病院なのに、専属の検査技師がいないのですね。でも、ウチの近くのクリニックでも、血液検査は外注して、1週間で結果が届きます。なぜ、この病院は、二週間もかかるのでしょう。

***

私の脳裏の疑念の渦がどんどん膨らんでゆきました。

病室に戻ると、なんと、乳がんの手術を受けるはずだった患者さんが、御主人らしき人と「転院」の話をしていました。

「院長が乳がんの手術をするのは三十数年ぶりなんだって。やばいよね。あたしは、前の病院で、温存手術ができないって言われて、ココなら温存手術ができると言われて転院してきたのに、今になって、やはり温存手術はできないというのよ。だったら、転院した意味がないし、あの院長に切られたら殺されちゃうわ」

これも、もちろん、この患者さんの主観的な意見にすぎません。客観的な医療情報ではありません。でも、私は、もはや、一刻の猶予もならぬと考え、決断したのです。

すぐさま民間の救急車を手配し、私は、さきほどの主治医(当直なのでナースステーションにいる)に会って、自己責任で退院させて、別の病院に移すことを告げました。
主治医○○は、
「私どもは責任がもてませんが、いいですか?」
と、言いました。私は、内心、
(5日間、ただの一回も何の説明なしで、ほとんど検査もせずに、回診もせずに、見込みの点滴だけ続けておいて、おまけにK妻の腕には無数の注射の失敗の内出血の痕があって、いまさら責任だと? せ・き・に・ん? ざけんなよ!)
と思いましたが、もう、こうなったら、「脱出」あるのみです。
私は、○○の顏を見て、言いました。
「それで結構です。もっと安全な病院でみてもらうことにします」

***

ちなみに、強制的に家に連れ帰ったあと、近くのクリニックに行くと、すでに血液検査の結果が出ていました。実は、入院前に、昼間、このクリニックを訪れて検査はしてもらっていたのです。

しかし、翌日の朝、急に症状が悪化したので、救急車を呼んだのでした。

細菌も○も検出されず、結果は、シロでした。

また、その場で、再度簡易血液検査をやってもらい、炎症反応もおさまっていることがわかりました。
しかし、貧血が酷いことがわかったので、急遽、造血剤の注射をしてもらい、また、二時間ほどかけてブドウ糖の点滴もうってもらいました。

今度は、点滴の針は一回で入りました。(ホッ)

K妻は、すでに順調に快復しつつあります。

つまり、あと1週間の入院など必要なかった、ということです。

***

この入院顛末では、あえて、病院名は書きませんでした。
それは、この記述が、あくまでも個人的かつ主観的な体験であり、なんら科学的かつ医学的な根拠にもとづいたものではないからです。

しかし、起きた出来事と患者さんの発言などは、詳細は別として、内容に関しては正確に再現するよう試みました。特に誇張したりもしておりません。

くりかえしになりますが、この体験記は、私が見聞きした伝聞情報をもとに、私の心の動きを書いたものであり、「厚生労働省を欺く錬金術」とか「常駐ではない」という表現も、すべて、私の主観的な感じ方にすぎず、客観的な事実として提示しているのではないことを強調しておきます。

最後に、もうひとつだけ感想を。

「週刊文春の裁判では、H雄が勝訴したが、どうやら、その理由は、告発記事が単発ではなく連載となり、それが行き過ぎだと裁判所が判断したからのようだ。ライターの取材結果は、私自身の体験と完全に一致している。また、9億2千万円の賠償請求に対して、裁判所が命じた賠償金額が660万円であったことも、一方的な勝訴でなかったことを物語っていたのだ。K妻の入院により、私は、H雄という人の病院経営に大いなる不満と疑念をつのらせる結果となった」(裁判は2005年9月21日に和解が成立した。)

たしかに、この男の脳内には革命が起きたようだ。
しかし、革命後の新政府は樹立されずじまいだったようだ。
そして、あの頭髪は、患者さんのいうとおり「ヅラ」にちがいないと、今、私は確信している・・・

(完)




■まだまだ続く、「仮説」の世界 その5


 北大の澤口俊之教授のセクハラ解雇事件には、正直いって驚かされました。改めて教授の著書の題名を眺めていると、「わがままな脳」、「モテたい脳、モテない脳」、「したたかな脳」・・・なんだか意味深長に聞こえるから不思議です。
 私もオフィシャルサイトに載せている「実験」という題の微小説に、冒頭から教授をモデルにした人物を登場させています。

 https://kaorutakeuchi.com/essay/essay_10.htm

「最近の若者は電車の中で平気で化粧をする。
 テレビを見ていたら、北拓大学の澤尻教授が興味深い仮説を述べていた。
「若者が恥の概念をなくしたのは前頭葉が未発達だからです」
 ナルホド。
 若者の化粧は前頭葉の未発達と関係しているのか。
 ようするに躾(しつけ)ができていないのだな。」

 もちろん、この微小説を書いたのは何年も前のことで、そのときの私の脳裏には「世界的な研究成果で知られる脳科学者」という「仮説」しか存在していませんでした。
 ですから、主人公と対比させてパロディで描いたのです。
 
 しかし、2006年3月31日に、この仮説はもろくも崩れ去りました。
 教授は、くりかえし、現代の若者の不埒な行動の原因は、未発達な前頭葉にある、と主張してきたわけですが、今回のセクハラ疑惑が本当であるのならば、教授自身の前頭葉も未発達であった、ということになってしまいます。

 今回の事件は、「99・9%は仮説」のなかで述べた「役割理論」とも深く関係しています。「まさか、あの人が」という典型例だからです。教授には、ほんの一部の関係者しか知らない隠れた人格があった、ということなのかもしれません。

 あらためて、この世が根拠のない「仮説」でできているのだな、という思いを強くした次第です。




■補足事項1


本書234ページおよび244ページの説明がわかりにくいかもしれませんので、補足しておきます。
殺人事件の事例です。
殺人事件はひとつなので、その場所は(宇宙のどこかで)確定します。
しかし、目撃証言は、バラバラでもかまいません。
なぜなら、「場所」をどう指定するかは、各人の勝手だからです。
それが「座標値」の意味なのです。



相対性理論では、このような簡単な座標の回転ではなく、もうちょっと複雑な回転になりますが、とにかく、観測者どうしの座標系の回転である点は同じです。(それをローレンツ変換と呼びます。)




■補足事項2


 46ページの惑星の順行と逆行の説明ですが、初版では東と西が逆になっていました。図版は正しいものです。(「のぼしぇもん」様、ご指摘ありがとうございます!)
 つまり、毎夜、同じ時間に特定の惑星を観察することにすると、その天球上における位置、いいかえると背景の星たちとの位置関係は、日を追うごとに西から東へと移動するのです。これは、図にあるように、地球が太陽のまわりを公転しており、惑星も太陽のまわりを公転しており、地球が外惑星を追い越すときと、内惑星が地球を追い越すときに生じる現象なのです。
 これに対して、一日の星の動きは、もちろん、地球の自転によるもので、星も惑星も太陽も東の空から上って西へ沈みます。
 ことばで説明してもこんがらがりますので、以下のURLを参考にしてください。

 http://www.flex.com/~jai/astrology/retrograde.html

 http://www.scienceu.com/observatory/articles/retro/retro.html

 http://www.lasalle.edu/~smithsc/Astronomy/retrograd.html




■補足事項3


 46ページの記述ですが、こんがらがるので、まとめてみました。

・24時間の日周運動では、恒星も惑星も、東から昇って西へ沈む。 (原因は地球の自転)
・365日の年周運動では、恒星は、東から西へ動く。(原因は地球の公転)
・365日の年周運動では、惑星は、背景となる恒星に対して、通常は西から東へ動く(原因は惑星の公転)が、東から西へ「逆行」することがある。逆行の説明は本の記載どおりです。

補足事項2も参考にしてください。




■補足事項4


 本書冒頭の飛行機の話ですが、単行本ではなく雑誌連載の形で翻訳が存在することが、訳者の中井祐輔さんからのメールで判明しました。
 
 日本航空技術協会(www.jaea.or.jp/frame/katudou.htm)発行の雑誌「航空技術」に「空を飛ぶしくみ」(2003年1月号−2004年8月)というタイトルで連載されています。

 残念ながら単行本にはなっていません。原書の発行元のマグロウヒルとの交渉がうまくいかないようです。

 また、抄訳(実際には最初に書かれた短い論文)の日本語訳もあります。

 http://www.aa.washington.edu/faculty/eberhardt/lift-J2.pdf

 是非、ご覧ください。




■補足事項5


ブルーバックスが無断引用問題で大江氏の二冊の本を回収・絶版にした事件のこともあり、引用箇所を再チェックしてみました。

40ページと43ページのホーキーの発言は、248ぺージにあげてある『方法への挑戦』の邦訳159ページからの不完全な引用です。

本書248ページには「ガリレオの望遠鏡の事例もくわしくでています」と書きましたが、ちょっとあいまいだったかもしれないと心配になったので補足しておきます。




■補足事項6(重要!)


金沢工業大学の西村秀雄先生より、科学史のお立場から、貴重なご提言をいただきました。ご指摘のポイントは、

1 「99・9%は仮説」の天動説・地動説の部分だけが、相対主義ではなく進歩史観にもとづいて書かれている。この部分も相対主義(複数主義)の立場で徹底すべきではないか。全面書き直しをしない場合、最低限の修正が必要ではないか。特に図の縮尺は正確なものに差し替えるべき。

2 また、サイトの補足事項2で紹介している一部サイトには明らかな誤りがあるので修正すべき。

3 46ページの記述があいまいで誤解を生むので修正すべき。

の3点にまとめられます。本来なら、本の部分的な修正を検討すべきところですが、すでに29万部が出荷済みであることもあり、これからの部分修正は、すでに本を買ってくださった読者に声が届かない恐れがあるため、次回作で相対主義を全面的にとりあげる際に、今回のご指摘について言及して対処することにしました。

以下に、西村先生からのご指摘のメールから一部だけ抜粋して、掲載させていただきます。

***

・ポイント1について:

(1)図版を可能な限り修正することがあげられます。導円:周転円の比をできるだけ正確にし、逆行の様子(p.48)も正確に描きます。すると逆行の幅は、実はとても小さいのだということに驚かされる(!!)でしょう。
 可能ならば太陽も描き加えると、センスの良い読者なら「天動説=地動説」という対応関係に気づくことでしょう。(ただし太陽を描き加えると、一般に、少々わかりにくくなるという難点があります。従って、この採否のご判断はお任せします。)

・ポイント2について:

 また(2)、貴方のサイト中の「補足事項2」で紹介されている、2番目のサイト<http://www.scienceu.com/observatory/articles/retro/retro.html>は削除されるか、紹介するにしても、「同サイト中の天動説全体の図〔上から2番目の図〕は不正確である」旨の注をつける必要があると思います。
 なお、確認のため同サイトを見て、今日気づきましたが、下部の二つのアニメーションは外惑星ではなく、金星のものです。
 ガリレオが、天動説の誤りを決定づける証拠とした──そして事実、その通り──ものですが、i)太陽とii)金星の「満ち欠け」(天文学的には「位相」)が描かれていないので、適当ではありません。

 「補足事項2」本文3行目、「・・・同じ時間に特定の惑星を観察することにすると、その天球上における位置、いいかえると背景の星たちとの位置関係は、日を追うごとに西から東へと移動する・・・」は、全体としては不正確な表現です。
 普通の読者が理解できるレベルで誤りを避けるためには、冒頭部分をたとえば「・・・同じような時間・・・」などに変更するか、引用冒頭部分そのものを削除して「つまり、毎夜、特定の惑星を観察することにすると・・・」とすれば、「1日とは何か」という問題──普通の人にとっては、地学のテストの時以外は無縁──を一挙に回避できます。

 もちろん後者がお勧めです。

・ポイント3について(西村先生からの文面修正案):

 月や太陽を含めて、空の星々は毎日、東から西へ移動します。
 数日、あるいはもっと長い時間をかけて夜空の星を観察すると、ふつ うの星(恒星)はそれぞれの位置関係を変えない──これがやがて「星座」になります──のに、一部の星(これが「惑星」)だけが、恒星の中を、西から東へゆっくりと移動しているのがわかります。
 しかし奇妙なことに、ずっと観察を続けているとやがて、惑星の東への動きが止まり、さらにはこれまでとは逆の方向、つまり西へ戻り始めます!!
 この、惑星が後ろへ戻る動きを「逆行」と言います。
 この逆行は、惑星(水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星*)だけに起こる現象です。もともと、逆行して「惑う」ようにみえることから、古代ギリシアで「惑星」という名前がついたのです。
 今の私たちには、あまりなじみのないこの逆行現象ですが、その前後には明るさが大きく変化してとても目立つ**ので、かつては広く一般に知られた現象でした。
 また西洋では、逆行を含めた惑星の位置関係***が占星術にたいへん重要だったので、古くから天文学者(当時はほぼそのまま占星術学者でした)者は、特に注意深く観測していました。

[以下、ご著書p.47へ。]

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*肉眼ではっきり見えるのは水星〜土星までです。
 天王星は、肉眼で観測されることもありました(たとえばガリレオ)が、その場合は惑星ではなく恒星だと考えられていました。高性能の望遠鏡によって海王星、冥王星が観測されるのは、ずっと後のことです。
**外惑星、特に火星は、ふだんは薄く赤っぽい色をした冴えない星ですが、逆行の際には燃えるように赤く 煌々と輝きます。そのため多くの地域で、戦いの神や厄の印と考えられ ていました。
 実際には火星の色は全く変化しておらず、その明るさが変化しているだけです。(カメラで撮影するとよく わかります。)しかし人間の視覚は、明るい時は色が良くわかるもの の、暗くなると色が良くわからなくなるという特性があるために、色まで変化するように感じられるのです。
 また昔、惑星の明るさの変化は、そのまま惑星との距離が変化して見かけの「大きさ」が変わるためだと考えられていました。実は地球−惑星間の距離も問題になっていたのです。
***これが「ホロスコープ」です。

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 なお、上記内容に関して詳細をお知りになりたい場合は、
(1)高橋憲一訳・解説、『コペルニクス・天球回転論 』、みすず書房、1993.
があります。高橋先生は当方の兄弟子に当たります。
 ただし、ある程度の知識を前提としますので、今回のメールの内容を確認するためには、
(2)西村秀雄、「『コペルニクス革命』再訪」、大野誠・小川眞里子編、『科学史の世界』、丸善、pp.1-18.
があります。

***

以上が、西村先生からのメールからの抜粋です。光文社新書の次回作では、相対主義を全面的にとりあげる予定でおります。また、その際、今回のご指摘の点についても振り返るつもりです。(竹内薫)



■補足事項7


 福岡市M様からのメールですが、とても参考になります。許可を得て、 ここに掲載させていただきます。(以下、メールの文面です)

 「99.9%は仮説」という本を読んで、とても楽しみました。ありがとうございます。

 この本の中で、一つだけ、気になるところがあります。18ページに出てくる飛行機にあたる風の絵です。

 飛行機がなぜ飛ぶのかは竹内さんの御説の通りですが、飛ぶ理由(言い訳)として、「吹き降ろし」と呼んでいる、翼を通過し
た風が下方に進路を変えることでも、説明されると思います。

 平たく言えば、風が下に押し下げられる反作用で航空機は飛ぶ(浮く)ことができると。竹内さんのご指摘のように、本当の説明にはなっっていないのですが・・・

 それでも、さまざまな実験などによって、その吹き降ろしの事実が現に観察されていますし、そのことからしてもこの絵は風の向きが変わっていないので、ちょっと悔しい思いをしました。

 増刷する時にでも、考えて頂ければ幸いです。


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