「漂流密室」取材記 2000年3月19日


屋久島MAP(白谷雲水峡案内より)

19日(月) その3

安房(あんぼう)は遣唐使のころからの古い港らしい。
だから、屋久島の警察署も安房にある。
今では、鹿児島に近い宮之浦のほうが整備されていて、特に観光客にはメジャーに見えるけど、地元には、いろいろな歴史的経緯もあるようだ。
ちなみに、明日行く予定の栗生(くりお)も遣唐使のころからの港だそうな。

ちょっと笑ってしまうが、「まんぼう」という名の遊覧船みたいなものがあった。
まさか、「あんぼう」とかけているのでもあるまいが・・・いや、おそらく、かけているのだろう。
この言語感覚、屋久島なので、許すことにする。

今日、泊まる予定の屋久島ロイヤルホテルは、安房なのだが、どこにあることやら。
とりあえず、ヤクスギランドに直行。
安房港から右折して、山道に入る。



 

屋久島は、円形の島で、周囲をぐるりと道路が通っていて、あとは、ところどころ、内側に道が放射状につくられている。
山からは、放射状に川が出て、海につながっている。

山道を車で三十分ほどいくと、ちょうど、前に取材した宮崎県の椎葉あたりの景色に似てきた。
九州の山間部は、かなり、景色が似ている。(あたりまえか)

ヤクスギランドに着いた。
レストランでもないものかと、いきなり、都会人の愚かさが表面にでる。
管理所で、

「このへんにレストランとかありませんか?」
「トイレならあるよ」

と、漫才のようなことをしてから、さらに、

「この150分コースって、遭難とかしませんか」
「平気、平気、ちゃんと標識がたってるから。ゆっくり歩いて150分で、ふつうに歩けば二時間もあればまわれるよ」

という会話をかわして、ヤクスギランドに入る。

最初は、ふつうの散歩コースみたいで、ようするに、鎌倉をハイキングするのと同じ。



結構、カップルが多い。
おれの前を部長と新入社員のOLといった年恰好の怪しいカップルが歩いておる。
最近、ホテルなどでも、こういうのをちょくちょくみかけるが、いったい、この国は、どうなっておるのやら。
それで、みんな、「うしろめたいですゥ」といわんばかりに、おれの視線を避けるのだ。
怪しいのは、誰の目にも明らかなのに、それを見てしまうほうもどうかと思うが。

ま、そんなことはどうでもいい。

スギですよ、スギ。

名前のついた有名なスギがあるので、順にみていく。

「千年杉」

いちいち解説しないが、写真をご覧あれ。

 

写真を撮ろうと思うのだが、くだんの不倫カップルが、いちゃついているので、邪魔でしかたねえ。
おもむろに三脚をたてて、「てめえら、不倫現場を撮られてもいいのか」ってな調子で写真を撮る体勢に入ったら、急にいちゃつくのをやめて、そそくさと立ち去った。
まったく。

苛ついてきたので、写真を撮りおわると、走るようにして不倫カップルを追い抜いて、どんどん奥に進む。

ふと気がつくと、深い杉の森には、木漏れ陽(び)というには惜しいような光線の束が、からみあうように、あちこちから降りてきた。
雨が降りはじめて、木々がざわめくように、光子のシャワーを浴びて、森全体が喜んでいるような・・・声を聞いたような気がした。
いや、たしかに、森の妖精の笑い声を耳にしたのだった。



感動して、きらめく光線と緑の天井を見つめていると、
「上に何かありますか?」
部長の声がした。
新入社員も、不思議そうに、おれの視線のほうをながめている。
「あ、いや・・・ほら、太陽のシャワーを浴びて、木々が喜んでいるでしょう」
そう教えてやると、不倫俗人低感度カップルは、顔を見合わせて、おれが「キ印」であるということで認識の一致をみたようだった。
「あ、そうですか・・・ははは」
部長の嗤いがうつろに響いて、もはや、木々は喜ぶのをやめたようだ。

こいつらは、ぶっちぎってしまわねば、せっかくの取材がだめになると直感したので、また、走り出す。



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