「漂流密室」取材記 2000年3月19日


■屋久島MAP(白谷雲水峡案内より)

19日(月) その2

今日は、晴れているので、なんとしても、ヤクスギランドを歩きたい。
雨だとしんどいからな。
事前に屋久島のエコロジー団体のホームページなどで下調べをした結果、

●縄文杉ツアーに偏っている昨今の風潮はエコロジーの観点からは推奨できない(トロッコ道は、杉を乱伐した負の遺産なのであるし、縄文杉ばかりが注目されて、根が踏み荒らされてしまった)
●むしろ、時間をかけて、ゆっくりとヤクスギランドを歩いたほうがいい

というようなことを学習していたので、ヤクスギランドに直行。(ええと、このエコロジー観、あとで、屋久杉自然館の館長さんのお話をうかがって、ガラリと変わった。どう変わったかは、あとのお楽しみ。)

本日のテーマは、「木を肌で感じる」とする。

車を快調に飛ばしていると、宮之浦をすぎたあたりで、ふたり連れのヒッチハイカーが指をたてていたので、親切にも停めてやる。
でっかいリュックを背負って、あきらかに山登りをしてきた恰好だ。



「どこまで?」
「屋久島空港まで行きたいんですけど」
「俺は安房からヤクスギランドへ行くから、乗っていいよ」
「ラッキー」

二人を乗せて、話をした。

「どっから来たの?」
「東京です」
「あ、俺も東京。鎌倉だけど・・・合宿かなにか?」
「大学のクラブで・・・五日かけて宮之浦岳とか登りました」
「げげげ、1935メートルの山に登ったの?」
「ええ、いまどき、山頂は、雪みたいな・・・雹(ひょう)が降るんですよ」
「ふーむ、この島は、本当に洋上アルプスなんだなぁ」
「ええ、おまけに猿とか鹿がいるし」
「東京じゃ考えられないよね」
「西部林道も歩いたんですが、二十数キロにわたって、民家が一軒もないんで、参りました」
「げげげ、世界遺産指定区域の断崖絶壁沿いの道を歩いたのかね?」
「そうです」
(若さとは恐ろしいものじゃ。わしが歩いたら、確実に死につながるであろうに)
「きみたち、どこの大学?」
「駒沢大学です」
「げげげ、俺は駒沢大学の隣で生まれたのだ」
「ええ? 本当ですか?」
「本当だよ。生まれは、世田谷の真中(まなか)というところだ」
「そうなんですか・・・観光ですか?」
「おお、よくぞ聞いてくれた! 俺はミステリー作家で取材に来ているのだ」
「ええ? 本当ですか?」
「おお、本当だとも。湯川薫って聞いたことないか?」
「うーん、おまえ、あるか?」(同級生に尋ねるが、首を横に振る)
「ま、世の中にいは、売れない作家という特殊な職業があるんだよ。これから、どんどん人気が出るから、覚えておけ。せっかく乗っけてやったんだから、次回作、買えよな」
「はあ」
「いいか、頭に叩き込んでおけ、漂流密室ってんだ」
「漂流密室・・・」
「そうだ。友達にも宣伝してくれ」



いつのまにか、「営業」をしている自分が情けない。
まるで売れない演歌歌手みたいじゃないか。
カラオケまわって自分のCDを売り込む連中。

学生を空港で降ろして、一気に安房まで走る。



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