まだ正月気分が抜けないので,あまり難しい論文の話題は避けて,今回は面白いトピックスをご紹介することとしよう。ネイチャーのWebサイトでちょこっと紹介されていた記ネイチャーのWebサイトでちょこっと紹介されていた記事
事である。
Case
Western Reserve大学のEric Baer教授と海軍研究所のチームは人工レンズでタコの目を再現することに成功した。
まず,ポリメチルメタクリレートとポリスチレンアクリロニトリルの2種類のポリマーを6000のナノスケールの層に積み重ねて,厚さ50μmのプラスチックの薄膜を一枚つくる。2種類のポリマーはちがう屈折率をもつので,ナノ層の数を調整することにより,1%ずつ屈折率のちがう100枚の薄膜が製作された。100枚の薄膜を積み重ねて球状に成型するとタコの目のできあがり。
光の屈折の物理学的な説明は「再び輻射された波が元の波と干渉するため」(『ファインマン物理学IV』戸田盛和訳,岩波書店,167ページ)となる。光が物質の分子と複雑に相互作用した結果だが,最終的には馴染み深い「干渉」効果の一種にすぎないことがわかる。
そんな難しいことを言わずとも,ナノテクのタコの目の原理は,ようするに空気中から水中に光が入射する二層の例を思い浮かべれば納得することができるにちがいない。
それにしても,なんで,ナノテクを駆使してタコの目などつくったのだろう? 軽い材質の新製品を投入して眼鏡屋さんでも始めるつもりなのか?
実は,この研究,資金がDARPAからでているようだ。そう,泣く子も黙るアメリカの軍事研究の拠点である。
今回の試作品は,将来的に,もっと柔らかいプラスチックを使うことにより,圧縮するだけで焦点を変えられるようになるらしい。すると,「軽くて,遠隔操作により焦点が変えられるタコの目」は,無人偵察機やミサイル誘導装置に搭載されるようになるのだ。
あまり笑えない話ですみません。次回は,もっと基礎的な論文を選んでみますので
(初出:日経ナノテクノロジー)
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