第18回
灯台下暗し、遠赤外線は針金を伝わる

 遠赤外線(テラヘルツ波:周波数が10の12乗ヘルツ程度の電磁波)のセンサーや画像解析や分光分析への応用がめまぐるしい。パラパラと科学専門誌をめ くってみてみテラヘルツという言葉がよく目につく。

 だが,これまで,遠赤外線を遠くまで運ぶ導波路は実用化されていなかった。遠赤外線よりも周波数の低いマイクロ波は金属導波管で伝送 できるし,周波数の 高い可視光や近赤外線は誘電体ファイバーを使えばよかったが,中間領域に属する遠赤外線だけは,うまい導波路がみつかっていなかったのだ。

 ところが,セレンディピティ(=思わぬものを偶然に発見する能力)という言葉がぴったりの発見により,金属裸線,いいかえると単なる 「針金」が遠赤外線の理想的な導波路であることが判明した。米Rice大学のK. WangとD. M. Mittlemanは,遠赤外線をつかった画像の研究をしていて,ふとしたはずみで,遠赤外線を金属表面の近くにあった金属線で「拾って」 しまったのだ(写真)。

 ここ何年もの間,プラスチック・リボンや様々なファイバーを遠赤外線の導波路として試していた人々からすれば,今回の「灯台下暗し」 とでもいうべき発見 は,驚き以外のなにものでもないだろう。もちろん,遠赤外線が針金を「伝わる」というのは,ラジオ波の場合と同様,遠赤外線が針金の中の電子を「揺らし て」,その揺れが針金の端まで伝わって,端っこから再び遠赤外線が放射される,という仕組みのことだ。

 遠赤外線が何の役に立つかだが,まず,プラスチックやボール紙を透過する能力が注目される。さまざまな周波数の遠赤外線をつかった 「ブロードバンド」の 探査針をつかえば,空港での手荷物や貨物の中の化学物質を検査することが容易になる。また,医学的な内視鏡への応用も考えられるだろう。

 Mittleman博士は,本誌の取材に対して,「今回の導波路の技術は,手の届かない場所へ遠赤外線を向けなければならないような 場合へと応用の幅を拡げる」と,遠赤外線の指向性が大幅に改善された点を強調した。産業への早期の実用化が望まれる。


【写真】針金の内視鏡。一本の針金を伝わってフラスコの中に入った遠赤外線はフラスコの形状を「計って」,跳ね返って,もう一本の針金を伝わって情報を戻 してくる(提供:Dr. Mittleman)


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