第13回
「バルクの超固体ヘリウム?」
 Pennsylvania州立大学教授のM. H. W. Chan氏と共同研究者のE. Kim氏は、230mK以下まで冷やしたヘリウム4の固体が超流動状態になることを発見した。結果は、9月24日付のScience誌に掲載された。(Science 305, 1941(2004))(オンラインでは9月2日に掲載。なお、ノーベル賞学者のT. Leggett氏によるScience誌の解説記事も参照のこと)
 非古典回転慣性(nonclassical rotational inertia 、NCRI)は、量子力学的な効果で、物質が臨界温度以下になると、超流動状態となって、慣性モーメント(I(T))が古典的 な値と比べて小さくなる現象だ。液体ヘリウムでは、

   

 となって、温度Tが絶対零度に近づくにつれて、超流動による部分(fs(T))が1に近づくことが知られている。
 だが、液体ではなく、固体でも同じように慣性モーメントが小さくなるとしたら、超流動の専門家でもないかぎり、かなり直観に反すると感じるにちがいな い。T. Leggett氏の比喩を借用するのであれば、それは、まさに「レコード盤の上にコインを載せて廻しても、コインがレコード盤と一緒には廻らない」ことを 意味するからである。
 もっとも、今回の実験で使われたのは、直径10mmの小さな「レコード盤」(=捩り振り子)であり、固体ヘリウムもコイン状ではなく環形 (annulus)だが、それでも、にわかに信じがたい結果であることに変わりはない。
 実をいえば、このような「超固体」の存在は、35年も前に(物理学教程で有名な)I. M. Lifshitzらによって理論的に予言されていたが、これまで、実験的な検証は成功しなかった。
 精確にいうと、同じ著者によるNature誌の論文(Nature 427, 225(2004))があるが、今回の結果は、バルクでの初めての成功報告となる。
 液体と比べると、固体の超流動効果は2桁ほど小さく、fsは0.017程度だ。


(Chan氏らの論文の図3-Bより。圧力は41バール。)
 
 今回の発見が正しいのであれば、物質科学全般に大きな影響を与えることは必至だ。特にボースーアインシュタイン凝縮が超固体のNCRIに必要かどうか、 今後の研究の進展を見守る必要があるだろう。



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