第5回「消えた惑星 科学の真相」

※学研「大人の科学」のコラムより

 時事科学ネタの「ぶっちゃけ話」をしろということなので、3月半ばに「1930年に冥王星が発見されて以来」と銘打ってマスコミ各紙が報じた「十番目の惑星」発見のニュースをとりあげてみたい。イヌイットの海神の名をとって「セドナ」と命名されるらしい。(ちなみにネットで検索してみたら、セドナは「人面アザラシ」のような風貌をしていた(汗))


 今回のニュースは、ある意味、奇妙な事件だった。なにしろ、2002年の6月にも同じ天文学者グループによって「クワオアー」という小惑星が発見されたことがあり、そのときも「1930年に冥王星が発見されて以来」と騒がれたばかりだからだ。
 冥王星の周辺には、冥王星やクワオアーと同じくらいの大きさ・重さの小惑星がウヨウヨしているらしい。ちょうど(火星と木星のあいだに拡がる)小惑星帯のように、太陽系の外周にも「星屑(くず)」がたくさん散らばっていて、「カイパー帯」と呼ばれているのだ。
 今回発見されたセドナは、大きさからいうと、ちょうど冥王星とクワオアーの中間くらいだ。冥王星は惑星であり、クワオアーは小惑星なのだから、セドナがどちらに属するのかが問題となる。(ちなみに、この3つとも、地球の月よりもちっちゃかったりする・・・)


 驚いたことに、セドナの発見者たちは、セドナが惑星だとは一言も言っていない。それどころか、この天文学者たちは、「惑星とは、太陽系内にあって、ほぼ同軌道上にある他の物体の総質量よりも重い天体のこと」だと主張しているのだ。つまり、隣近所よりも突出して重いことが惑星の条件だというのである。そして、冥王星もクワオアーもセドナも「どんぐりの背比べ」状態なので、みんな惑星ではないのだという。


 歴史は繰り返すというが、(火星と木星のあいだにある)小惑星帯でも、かつて、同じような事件が起きていた。次々と新惑星が発見されて、しまいには「どんぐりの背比べ」状態となり、ある時点で、「ゴメン、これまでのはチャラ。全員、惑星から小惑星へ格下げ!」ということになったのだ。
 というわけで、今回のニュースは、「十番目の惑星セドナが発見された」のではなく「冥王星が惑星の座から滑り落ちて小惑星になっちゃった」というのが科学的な真相に近いのだ。


 報道の混乱の煽りを喰らって「セドナは世界初のオールト雲の天体かもしれない」という、発見者たちの科学的な主張も霞んでしまった。セドナは、もしかしたら、太陽系のはるか彼方にあり、彗星の製造工場の役割を果たす仮説上の「星屑の雲」からの来訪者かもしれないのに――。


 そうそう、誰しも惑星といわれればホルストを思い出すだろう。組曲「惑星」は1916年に完成したのだが、当時は海王星までしか発見されていなかったので、冥王星の曲は存在しない。1930年に冥王星が「発見」されて以降、組曲「惑星」には惑星が一つ欠けていて、勘定が合わなくなっていたのである。だが、冥王星が(晴れて?)惑星でなくなれば、ホルストの組曲は、あらためて「完成」ということになる。

 というわけで、セドナ発見のニュースは、科学が霞んで、報道がセンセーショナルになりすぎ、草葉の陰でホルストが喜んだ、という、なんともミステリアスな事件(?)だったのである。

 物言えば唇寒しで、あまり言いたくないんだけど、今回の「誤報」は、一部、科学予算の問題と関係している節があり、それに気がつかなかった善良なマスコミが躍らされた、というのが真相だったように思う。(惑星が増えると予算も増えるからな・・・)あ、やっぱり、今の発言、忘れてくれ。じゃ、そゆことで。
(NASAのプレスリリース:http://www.spitzer.caltech.edu/Media/releases/ssc2004- 05/release.shtml)




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