第2回「言葉と数字の深い関係」

・元ネタ:
2004年8月19日「サイエンス」オンライン版
"Numerical Cognition Without Words: Evidence from Amazonia"
Peter Gordon

・解説記事:
2004年8月20日「サイエンス」p.1092
"Life Without Numbers in the Amazon"
Constance Holden


 ぶっちゃけた話、これはアマゾン奥地に住む「Piraha」という種族が、数字の「1」と「2」をあらわす言葉しかもっておらず、それゆえ、3以上になると精確に数えることができなくなってしまう、という論文だ。ちょっと聞くと、なにやら人種差別的な雰囲気も漂うが、ちゃんと論文を読んでみると、まじめな認知心理学・言語学・文化人類学の中身であることがわかる。
 解説記事の題名は「アマゾンでの数なし生活」。

注:発音例では「」は強く言って、()は弱く言ってください

"To what extent can concepts exist without the words to express them?"

・extent=拡がり to what extent=どれくらいまで
・concept(s)=概念、アタマで考えること、コンセプト
・exist=存在する(えぐ「じ」す(と))
・express=表現する


「それを表現する言葉なしに、概念はどれくらいまで存在できるだろうか?」

  ベタ訳ですまん。もっとうまく訳せるけど、恰好つけると、英文との対応がわかりにくくなるからな。許せ。

"Among members of a tiny tribe in the Amazon jungle that has no words for numbers beyond two, the ability to conceptualize numbers is no better than it is among pigeons, chimps, or human infants, the psycholinguist finds."

・tiny=ちっちゃな(「た」いにー)
・tribe=部族
・conceptualize=概念化する、アタマの中で思考を形にする、コンセプトをはっきりさせる(こん「せ」ぷちゅあらいず)
・infants=乳児(「いん」ふぁんつ)
・pigeon(s)=鳩(「ぴ」じょん)
・chimp(s)=チンパンジー
・psycholinguist=psychologist+linguist=心理学者+言語学者=心理言語学者(さいこ・りんぐいすと)


「2より大きな数をあらわす言葉をもたない、アマゾンの密林に棲む小さな部族においては、数を概念化する能力は、鳩やチンパンジーや人間の赤ちゃんと同程度だと、この心理言語学者は言う」

 a tiny tribeのほかにも部族はいるので、その中の「一部族」という意味で「a」がついている。それに対して、この説を述べているPeter Gordonという学者は、この文章より前に出てくるので、「この心理言語学者」と「the」がつく。aとtheの使い分けが難しい、という人が多いが、原則として、読んでいる人が「ああ、あれね」と特定できるなら「the」を使えばいいし、特定できないで他にもある(いる)なら「a」を使えばいい。
 また、肩書きなどでは、たとえば、

   Ernst Poeppel, professor of medical psychology...
  「エルンスト・ペッペル、医学心理学の教授」

 という具合にaもtheもつけないことが多い。researcher(研究員)という肩書きなどもそう。あえてつけるなら「the」だろうな、やっぱし。
 サイエンス誌に出ている写真は、ある意味、ショッキングだ。紙の左側に何本かの線が描いてあって、この部族の被験者は、それをそのまま紙の右のほうに描き写すよう求められる。

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 写された結果は、

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 という感じだった。(殴り書きみたいに)

   

 たしかに、2以上については、精確に把握されていないようにみえる。
 Gordon博士によれば、

"What's innate is being able to see up to three"

・innate=生得的、生まれつきもっているもの(い「ね」い(と))

「生まれつき備わっているのは3までを理解する能力だ」

「see」は、今の場合、アタマの中で「見る」ことだから「理解する」と訳していい。原義から派生して「理解する」わけだが、もちろん、原義のニュアンスは残っている。ここらへん、辞書を引いていると忘れがちですな。
 とにかく、言語学者の中には、人間は生まれつき「数」の概念をもっている、と主張する人もいるらしいが、今回の実験では、どうやら、生まれつきもっているのは「3まで」ということになるらしい。
 数学を学ばないといかんですね、これは。

"Gordon says that the study favors a hypothesis by linguist Benjamin Lee Whorf, who believed that language is more a "mold" into which thought is cast than it is a reflection of thought."

・study=研究
・hypothesis=仮説(はい「ぽう」ししす)
・mold=鋳型(もうるど)
・cast=鋳造する、型をとる
・reflection=反映
・thought=考え、思考


「ゴードンによれば、今回の研究は、ベンジャミン・リー・ウォーフの仮説に有利だそうだ。ウォーフは、言語というものは、思考を反映するものというよりは、思考を流し込んでかたどる「鋳型」のようなものだと信じていた」

「reflection」の原義は「反射」。今の場合は、アタマの中で考えが反射する・・・すなわち内省する感じ。ようするに、思考が言葉になるのではなく、むしろ、言葉という「型」が用意されていて始めて、思考がはっきりした形をとることができる、という意味なのじゃな。

 うーん、ということは、外国語を知らなかったり、数学言語を知らないと、思考の幅も制限されるということなのか?
 してみると、オレが、学生時代、指導教官のギリシャ人の爺の言っていることがチンプンカンプンであったのも、オレのアタマの中にギリシャ語の鋳型が存在しなかったからかもしれない。
 あるいは、数学に達者な奴の発言が意味不明なのも、オレのアタマの中に、数学者のアタマの中にある鋳型が足りないからなのか。

 ちょい、後味の悪い論文じゃな。ま、勉強にはなったが……。


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