Making of the Terror at Terra


3 もちこみ悲話


さて、なんとか無事に企画会議を通ったので、実際に仕事をはじめる。

ここでふたたび脱線。
こんな疑問をおもちのかたもいらっしゃることだろう。
「最初の最初はどうすんのさ」
つまり、持ち込みで原稿を見てもらうような場合。

持ち込み原稿といっても、いきなり出版社に電話をして、
「原稿みてもらえませんか」
などといっても、断られるのがオチ。
なぜかといえば、持ち込まれる原稿の99%が商業出版ではあつかえないものだからだ。残りの1%は宝物なわけだが、そういう経験をしたことのある編集者はほとんどいない。だから、経験上、時間の無駄であるということになっていて、最初から見てくれない。

数字はいい加減ですし、そうでない出版社もあるだろう。

実際、何人かの編集者から聞いた話なので、あくまでも一般的な伝聞情報だと思っていただきたい。

僕も十年ほどまえ、アインシュタインの詩を書いて出版社に送った覚えがある。いまからかんがえると暴挙以外のなにものでもなかった。案の定、一社以外は、門前払いを食らってしまった。
「当社では依頼原稿以外はあつかっておりません。返却いたします」
という断りのはいいほうで、そのまま、つっ返してくる出版社がほとんどであった。唯一、筑摩書房の若手編集者だけが興味を示して返事をくれたが、数週間後、
「先輩の編集者にみせたところ、よくわからないということで、残念ですが、今回は原稿をお返しいたします」
という手紙がきた。

おそらく初(うぶ)な新人さんが、まともにとりあってくれて、年季の入った編集者に見せたところ、
「だめだよ、こんなの」
と一蹴されたのだろう。

ちなみに、いまになってみると、持ち込みで撃退され続けたのも、いい経験になっているような気がする。

それから、出版社の対応は、その出版社の活動精神というか「中身」を垣間見させてくれる。わけのわからない人間からわけのわからない原稿が送られてきたときに、捨ててしまうか、いちおう目を通して返事を書くか、見もせずに自動的に送り返すか。

実は、そういう態度のちがいが、読者を相手に商売をする態度と連動していたりする。つまり、金儲けだけで本が好きでもない出版社と、本が好きでやっている出版社のちがいである。本好きが「いい本だしてるなぁ」と思う出版者は、それなりにちゃんとした対応をしてくれるようだ。

ただ、編集者のためにひとこと弁護しておくと、送られてくる原稿をすべて読んで真摯に対応していると、本職がおろそかになる。いや、それどころか、まったく仕事をする時間は残らないにちがいない。だから、文学賞のような「公募」以外は、事実上、持ち込み原稿を読む時間などない。

だから、編集者を責めるのはお門違いというものである。
 
で、自分の原稿に自信があって、どうしても見てもらいたい場合はどうするか。
これは、やはり、すでに作家としての地位を築いている人か、書店の編集長のような人に「つて」で頼むことになる。

そんな「つて」などない?
いや、僕もありませんでした。
ないと思えばない。

でも、探せば、親戚や友人や先輩にひとりくらいは出版関係の仕事をしている人は必ずいる。そういう人に頼むのだ。そうすれば、作品が良ければ、それなりのアドバイスをもらうことができる。
「もう一作、こんな感じで書いてみたら」
といわれたら、ものになる可能性があるということだ。

作品の芸術度や完成度が高いということと、すぐに読者が喜んで買ってくれるということは別なこともあり、文化を補助しない国に住んでいるのであるから、「商い」のハードルも越えなくてはならない。

持ち込みで門前払いを食ったからといって、自分がダメだと思わないことである。
世の中のしくみは、顎がはずれるほど複雑なのであるから。

脱線が長くていかんな。



4 キャラクター


さて、キャラクター設定にかかるとしよう。

まず、登場人物の絵を描く。





それにしてもヘタな絵ですなぁ。われながら惚れ惚れするわい。
今回は、子どもを登場させるということで、

● アケミ ショートカット 粋な女 皮肉っぽい シャレている
  大人っぽい クール 小6 家族? 化学好き

●メガネ タイツ 参考書 運動ダメ 小6 ガリベンで御三家を目指している
  家は公務員 団地っ子 「将来 役人になり国を動かしたい」
  受験のために科学教室

●フミー(富美子)  なで肩 セーラー? ロングスカート? 小6
  大手電機会社重役の娘 わがまま 足をブラブラさせる すぐ泣く
  星が好き 虫はキライ ボンよりもタカが好き

●タカ 主人公 サラサラ サーファー系Tシャツ 色黒 ジーンズ
  スニーカー 歯の治療へ スポーツ万能 小6 家は「ブティック」
  鍵っ子 父親はいない 幸四郎と葵と共通 工作好き ラジオ エンジン

●ボン コブ バンソコー 補強 小6 下町の大ヤクザの一人息子
  「あり」に大きな興味 頭切れる 手が出る 女に弱い フミのことが好きでいじめる

思いつくままにキャラを考える。ブレインストーミング段階。

これは、最初のメモなので、これから以降、どんどん修正されてゆく。実際の作品をお読みいただくと、大幅に変わってしまうことがおわかりいただけるかと思う。
人間関係とプロットとの絡みで、登場人物も変わる必要がある。
ここで、愛憎関係とか子どものあいだの力関係なども考えておく。

背景になる家族関係などもメモしておくが、考え始めると、泥沼化するので、どこかでやめないと収拾がつかなくなるので要注意。
だって、登場人物の家族や親族や同級生を特定しはじめると、何万人にも膨れ上がるからである。(笑)
 
かといって、適当にやっておくと、あとになって矛盾が露呈したりするから怖い。
おもな登場人物の素性は、経歴や先祖にまでさかのぼって設定しておく必要がある。
なお、僕の場合、登場人物の細かい服装や装身具などは、最後の最後、ゲラの段階で書き足すことが多い。



5 プロット


次に詰める必要があるのが犯罪の進行過程である。

犯人はどうやって完全犯罪を実行したのか?
なぜ、それが可能だったのか?
目撃者は、なぜ、犯人を見なかったのか?
 
実際の文章には登場しない、いわば舞台裏の視点である。
神様の視点といってもいい。
具体的な犯行の場面と順序をまとめる必要がある。

ふたたび図をご覧いただきたい。
またまた、ヘタな絵だ。
こんな描き殴りの絵でわかるのか?

おそらく他人が見たらなんのことやら首をかしげるであろうが、描いた本人にはわかる。(笑)
犯人の気持ちになって、どんどん、犯行を重ねてゆく。
ちなみに、これは、密室の内部の地図にもなっている。

ええと、ネタバレになるといかんので、あまり拡大できないが、あしからず。(Gripenさん、ヨロシク!)





こういった部分は、別に絵に描く必要はないが、僕はビジュアル系(?)なので、文章で犯行手順を書いてもうまくイメージできないから絵にしてしまう。
絵などまったくつかわない作家のほうが多いかもしれない。

ちなみに、今回は、自分の内面に正直にやりやすい方法でやった。「ディオ」から「イフ」までは、あまり絵を描かなかった。もしも、「漂流密室」がこれまでとちがった作品になるとすれば、創作手順を思い切って自分の得意な方法に切り替えたからだと思う。実際に変わっているかどうかは、読者の審判を仰ぎたい。(自分じゃわからないので)

シノプシスの完成から、絵によるプロットの完成まで、今回は、三週間が過ぎた。
なにをぐずぐずしているのだ。早く書き始めれば早く完成するだろうに。
そう思われるかもしれないが、頭の中で、ああでもない、こうでもない、トリックが未熟だ、などと考えていたら、こうなった。
時間がかかったわりには、文章がまったく進んでいないので、この時点で、かなり焦ってくる。



6 資料集め


資料集めについて書こうとおもっていたら、今日(5/29)、編集の本間さんから絵のラフスケッチがファックスで届いたので、そちらのほうを先にやろう。

というわけで、「6 資料集め」は次回ということで・・・

(番号わからん)外まわり

外まわりといっても営業で汗水たらして歩きまわることではない。
僕はほとんど関係がないが、本の表紙や装幀といったところのお話。
編集者の腕の見せ所である。
著者は、素材の原稿を出すだけであり、その後のすべては書店サイドの仕事となる。ゲラができてからの校正などの話は、あとでやりますが、「外まわり」をどうするかは、本の制作の最終段階だといっていい。

今回は、僕自身が漫画好きであるということと、難解というイメージを払拭したい、ということから、「すねや かずみ」氏に編集の本間さんが漫画を依頼した。イラストである。
ファックスでラフが送られてきました。

なかなか感じが出ていて好感触だ。

漫画というのはイメージが強烈かつ具体的なので、絵心のある人は自分のイメージとちがう場合もあると思うが、いずれ、表紙案をもらったら、このサイトで「投票」をしてもらうつもりです。

IT時代なのだから、読者が表紙の決定に参加するということがあってもいいのではなかろうか。どうか、ご協力、お願い申しあげます。「サイン入り幻の初稿、ゲラ」などプレゼントをご用意させていただきますので。

編集の本間さんは、表紙の絵が決まったら、装幀担当の人と連絡をとりあって、全体の形を決めることになる。表紙の絵と装幀は、同じ人がやる場合もあるが、ちがう人がやる場合もある。

あと、帯の文句も編集の本間さんが考える。
これまでは、新人ということで、大作家の推薦をもらってきた。それも編集者の役割。考えると、編集って、大変な作業だと思う。

脱帽。

本の版形は、ふつうのノベルズと同じ。
広告の仕事をしていて、奇妙なことに気がついた。
それは、広告業界でいっている紙の大きさと出版業界での本の大きさが、まったくちがうということ。四六版とか菊版とかいう大きさのポスターがあるのだが、これが、本の大きさとまったくちがうのである。

その理由は簡単で、広告のポスターの場合は、四六版とか菊版の「原紙」をつかっているのに対して、本にする場合は、その原紙に何ページも印刷してから、切って使うのである。切るというか、折るというか。切って折るわけですな。

菊版の場合、

・原紙  636×939
・2つ切 469×636
・4つ切 318×469
・8つ切 234×318
・16切 159×234
・32切 117×159
・64切 79×117
 
というように、何分割するかで、呼び方がかわってくる。詳しく知りたい方は、Googleで「本 菊版」というようなキーワードで検索してみてください。

ええと、それでは、次回は、元にもどって、「6 資料集め」からやります。


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