宇宙のかけら イラスト1
宇宙のかけら

なぜ、この宇宙はあるの?
この宇宙はどうなるの?

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竹内薫:著
片岡まみこ:イラスト

青土社
定価(税込):1,944円
ISBN13:978-4-7917-6964-3

いつか、この宇宙にもおわりがくるかもしれない

それでも、星のかけらからつくられたわたしたちが、

ほんの一瞬、輝いて生きることには意味がある。

宇宙のかけら イラスト2

宇宙の詩

   竹内さなみ:作

 1 あの夜空に輝く銀の川はなに?

 <通勤電車>
 
 ガタンゴトン、ガタンゴトン
 風がぴゅうぴゅう吹く夜も、太陽がジリジリ照りつける朝も
 ガタンゴトン、ガタンゴトン
 あっちに揺られこっちに揺られ
 痛っ!
 バカ、足踏むな!
 ちょっと邪魔、新聞なんか読まないでよ
 おい、肘が当たるっつーの
 あったまくるな
 だから、スピーカーから音がシャカシャカうるさいって……

 「次は銀河」
 ふいにアナウンスが響き渡る
 一人の女性が読みかけの文庫本から視線をあげた
 「次は銀河、銀河に停車いたします」
 聞き間違い
 銀河
 この列車の行き先はたしか
 そういえば
 どこ、どこだっけ

 二つ離れた車両で男性がポツリとつぶやいた
 そういえば、どこへ行くんだっけ
 若者がイヤホンをはずしながら叫んだ
 そうだ、俺たちどこへ向かってるんだ
 
 ぐうんと負荷をかけながら
 列車はプラットホームに滑り込む
 「ぎんがぁ、ぎんがぁ、お乗り換えの方はお忘れ物に御注意下さい」
 
 音もなくドアが開くと
 そこは真っ暗な闇
 ソンブレロが一つ
 ぽわんと光りながら
 浮いていた


 <休日の朝当番>
 
 たまの休みの日くらい
 いいじゃないか、ゆっくり寝かせてくREよ
 むにゃむにゃ
 必死にふとんを身体に巻きつける
 ーー○△※ったら!
 わかった
 むにゃむにゃ
 ーー○△※っ!
 そんなにカッカしないでさ
 はいはい起きるよ
 起きればいいんでしょ

 寝ぼけ眼で起き上がる
 ーー◆#▲〜〜お願いね
 おいおい
 まだ顔も洗ってないんだぜ
 そうだ
 ゴルフ中継観てからでいいだろう
 ーー○△※っ!
 わかった
 はいはい当番は自分です

 ひと抱え分の洗濯物を
 洗濯機に入れまして
 そこへポイと
 ディスク型の洗剤を投げ入れまして
 ボタンを押せば
 ハイ洗濯開始

 やがてシャツもパンツも
 ちゃぷちゃぷと音を立て
 顔をだしたり沈んだり
 七色の星くずが
 くるくるくるくる回りだす

 2 わたしたちはどこにいるの?

 <千手観音の腕ーオリオン腕>
 
 え〜毎度ばかばかしいお話を一席

 みなさんよくご存知の観音菩薩さま
 この観音さんてえのは、よく阿弥陀さんの隣に立ってらっしゃいますな
 まぁ、われわれ米ぶつのようにちっぽけな人間を助けようと
 手をさしのべてくださるありがたい存在
 手といえば、観音さん、やたらめったらたくさん手をお持ちだ
 なにしろ千本あるっていうんだから、あなた
 ごうつくばりにもほどがあるってんで
 へへへ、まぁ、それは、それ
 観音さんにも大人の都合ってもんがあらぁな

 でね
 何がいいてぇかっていうと
 観音さんがたくさん持ってらっしゃるのは手だけじゃないんで
 「顔」
 顔ですよ
 もう、あっちこっち目を光らせて人を救おうってんで 
 半端じゃない
 十一面もお顔がある
 一説には二千億のお顔がくるくるふわふわ
 観音さんのご本体のまわりに漂ってるってんで
 ありがたいことじゃないですか、ねぇ

 たとえば
 ほら、お城から二・八万億年はなれた天道長屋に住んでる「ちきう」
 日がなのんきにぶらぶら歩くまわってらあ
 おかみさんが尻をたたいても
 働きゃしない
 毎日毎日てくてく街を流しております

 そんな罰当たりな「ちきう」がね
 こないだ何を思ったか
 銀河の外へでてやろうってんで
 みんなが止めるのもきかず銀河の外に向かって歩き出した
 ああ、もうこりゃだめだ
 銀河の絶壁からおっこちて御陀仏だってんで
 おかみさんは泣きじゃくる
 ガキはガキで
 おかあちゃん、これで香典がっぽりもらえるね
 と大はしゃぎ

 気が早い大家が注文した棺桶が届いたって段になって
 「ちきう」の奴
 ひょっこり帰ってきやがった
 よく聞けば 
 やっこさん、天道長屋をいさんで出ていったのはいいが
 さすがに銀河の絶壁を前に脚をガタガタいわせてやがった
 長屋のみんなの手前
 ひくにひけず
 えいっと飛び降りた瞬間
 長〜い腕がにょきりと伸びてきて
 抱きとめてくれたそうな
 はてもありがたや観音さんの腕

 で、その腕に奇妙きてれつな名前があるってんで
 一同、二度びっくり
 観音さんがおっしゃるには
 その腕は、なんでも「おりおん腕」というらしいんで

 おっと
 そろそろお後がよろしいようで。

 <紳士と望遠鏡>

 ある日
 顔のないのっぺらぼうが
 とてつもなく大きなCDディスクをもってきた

 そんな大きなCD
 入るプレーヤーなんかあるもんか
 のっぺらぼうが困っていると
 これこれ私にお任せなさい
 と首に真っ白なカラーをまいた紳士があらわれた

 紳士は懐から望遠鏡をとりだすと
 巨大なCDを検分しはじめた

 ふむふむ
 直径は八万……いや十万後年じゃな
 して厚さは……ほおほお、一万五千後年
 まあ妥当じゃな
 中に無数に光る点が見える
 なるほどなるほど
 あの光の点で優美な音をかなでるのじゃな

 とそこへ小難しい顔をした紳士がまた一人
 どれどれ、私にお見せなさい
 ははぁ、渦を巻いて回転しておるぞ

 一人また一人と
 紳士があらわれては望遠鏡をのぞきこんでゆく

 「……それで、けっきょくこのCDには
 どんな音楽が入ってるんでしょう」

 のっぺらぼうが恐る恐る訪ねると
 紳士たちは気まずそうに顔を見合わせた

 ううむ、そうですなぁ
 これはまだまだ研究の余地がありますなぁ

 紳士たちはうなずくと
 クモの子を散らすようにぱぁっと空中に散らばって消えた
   


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