エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

Dブレーン
橋本幸士著
★★★

 超ひも理論には、ひもだけでなく、ひもが生える壁のような奇妙な物体(?)が登場する。その「Dブレーン」を一般書と専門書の中間のレベルで巧みに解説。

(東京大学出版会・2400円)


夜空を歩く本
林完次 写真・文
★★★

 天文作家・写真家による夜空の写真集。ハッと息を飲むような美しい写真が印象的。写真に添えられた短文にはホッとさせられる。

(インデックス・コミュニケーションズ・1500円)


蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか
稲垣栄洋著 三上修絵
★★★★

  植物学のエッセイ。こんな本が教科書だったら、私は植物学が苦手にならずにすんだかもしれない。
 表題の「蝶々はなぜ葉にとまるのか」や「桃太郎はどうして桃から生まれたのか」など、身近な植物をとりあげつつ、その不思議な生態や進化の歴史、人との関わりに至るまで、詳細かつ楽しい文章で綴られている。三上氏の美しい挿絵も本書に彩りを添えている。
 私が気に入ったエピソードをいくつかご紹介しよう。
 その一。門松で、松よりも竹が目立つ理由は、戦国時代の松平家(徳川家)と武田家の争いから来ているのだそうだ。
 その二。六十年に一度、竹が花を咲かせると、その種子を餌とするネズミが大繁殖し、田畑を食い荒らして、大飢饉を誘発するのだという。
 その三。お釈迦様には申し訳ないが、
「そもそも、仏さまが座る蓮台になるようにハスの花が平らになっているのは、仏が座るためではなく、甲虫類が訪れやすくするためである」
 というのが、植物学による真相らしい。
 いやあ、植物と人間文化の深い関わりに、改めて気づかされました。

(草思社・1400円)

(日本経済新聞 2006年12月13日掲載)