エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

誘惑される意志
ジョージ・エインズリー著 
★★★★

 私はなぜ、衝動買いをするのか。学者はなぜ、データをねつ造するのか。本書は、そういった人間の性(さが)を「双曲割引」という数式で明快に説明。山形浩生訳。

(NTT出版・2800円)


へんな毒すごい毒
田中真知著
★★★

 気鋭の科学ライターによる、毒学の百科事典である。毒の基本的なメカニズムから始まり、古今東西の毒のエピソードが見開きで紹介される。イラストも見やすい。

(技術評論社・1580円)


長谷川健太郎写真集
★★★★

 副題のとおり、「奇妙な凪」のような写真集である。
 報道写真家の長谷川健太郎は、写真雑誌「フライデー」や「週刊現代」といった媒体を中心に活躍している。
 リアルタイムで、雑誌の一ページに載っている写真を見るとき、そこには「時間」が存在する。
 ところが、こうやって写真集になって、一冊の本の中に入った写真を見ると、もはや「時間」は消えてしまう。まさに「凪」と形容するしかない、シュールレアリスティックな芸術写真が、そこにはある。
 腐る豊作みかん、カラスの薬殺、年間一〇〇〇トンの使用済み核燃料、定員オーバーとなった少年刑務所、水没する廃校・・・ふだんのニュースで見聞きしているはずなのに、あらためて見てみると、その光景は、見る者に大きな衝撃を与える。
 私が特に強い印象を受けたのは、みかんにせよ、カラスの死骸にせよ、「物」が集積したときに醸し出す不気味な陰翳だ。
 ここには、現代文明が抱え込んだ、どうしようもない問題の数々が、時を超えて「告発」されている。斎藤環・文。

(左右社・2200円)

(日本経済新聞 2006年10月11日掲載)