エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

歌うネアンデルタール
スティーヴン・ズミン著
★★★★

 ヒトの言語と音楽には、「Hmmmmm」なる共通の先駆体があったらしい。言語を進化させられなかったネアンデルタール人の悲運について考えさせられた。熊谷淳子訳。

(早川書房・2200円)


きみのいる生活
大竹昭子著
★★★

 思いもよらなかったスナネズミとの出会い。たかがネズミと侮るなかれ。著者の語るその愛らしさ、数々の事件、そして別れ。心温まる小さな生き物との生活が綴られている。

(文藝春秋・2095円)


算数の発想
小島寛之著
★★★★

 算数の発想によって、宇宙のなりたちから、社会・経済のなりたちまでを読み解いてゆく。
 旅人算、ガウス算、相似図形、仕事算、数え上げ、集合算。誰もが算数で教わった例題から始めて、話はどんどん深くなり、しまいには大学院の講義でしか聴くことができないような話題まで、そのからくりが理解できるから痛快だ。
 読んでいていちばん感心したのは、仕事算やニュートン算の中学入試の問題が、あれよあれよという間にロバート・ソロー(1987年度ノーベル経済学賞)の経済成長モデルに「化けた」部分だ。そのモデルは、さらに林・プレスコットモデルへとつながり、平成不況の真因が浮上する。
(景気低迷の原因は、)「ケインズ派やその亜流論者の「何らかの理由で消費や投資が控えられている」という需要主因説とは180度異なり、ある意味目に見える、労働時間や技術水準やインフラなどの実物的な面にある」
 算数レベルで、最先端経済学理論による平成大不況の分析が理解できるなんて、こりゃあ、たまげた。まさに算数の発想、恐るべし、である。

(NHKブックス・920円)

(日本経済新聞 2006年8月9日掲載)