エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

ソロモンの指環
コンラート・ローレンツ著
★★★★

  「すりこみ」を発見し、動物行動学を切り開いたノーベル賞学者による古典的な名著。とにかく面白くて感動させられる。ハードカバーの新装版の復活が嬉しい。日高敏隆訳

(早川書房・1600円)


トンデモない生き物たち
白石拓著
★★★

 生き物たちの、不思議な生態の豆知識が、一口ずつ楽しめる。「寄生されると自殺したくなる虫にご用心」、石油生成細菌の話など、かなりオドロキです。

(宝島社・1333円)


ビジュアル保存版 ユダの福音書
マービン・マイヤーほか編著
★★★★

  憑かれたように読んで、DVDに見入ってしまった。
 本書は、キリスト教が成立する過程で「禁書」とされ、歴史の表舞台から消え去った「ユダの福音書」の翻訳と、それをめぐる冒険談である。
 千七百年の時を経て、エジプトの洞窟から発見された古文書は、コプト語(古代エジプトの言語)で、パピルスに記されていた。古文書は、農民から古美術商の手にわたり、盗難の憂き目を見て、エール大学にも購入を断られてしまう。
 ボロボロにくずれて、無数の破片と化したパピルスは、しかし、スイスの古文書復元の専門家により五年がかりで修復され、今、その八割の内容が明らかとなった。
 そこに書かれていたのは、ユダが裏切り者ではなく、むしろ、イエスの教えを忠実に理解し、実行した人物だった、という「犯人」の視点からの物語であった。
 炭素測定法による科学鑑定はDVDの見所の一つ。最終的に、本物の写本だと証明された「ユダの福音書」は、西洋社会の常識を百八十度覆す、衝撃の書である。
 世紀の大発見であり、知的興奮に誘う極上のサスペンスだ。藤井留美ほか訳。

(日経ナショナルジオグラフィック社・3800円)

(日本経済新聞 2006年7月19日掲載)