エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

「うつ」かもしれない
磯部潮著
★★★★

  年間三万人以上の自殺者を出し続ける日本社会。著者は、その背景に「人間関係の希薄さ」をあげる。「うつ」で苦しむ人や友人、家族に是非読んでもらいたい本である。(光文社新書・700円) 

(光文社新書・700円)


終末のフール
伊坂幸太郎著
★★★★

 連作短編小説であるが、どことなく「科学」の香りが漂っているから不思議だ。小惑星の衝突で滅びようとする地球を舞台に、さまざまな人間喜劇が繰り広げられる。

(集英社・1400円)


不完全性定理
野崎昭弘著
★★★★★

 人類が現在の時点で辿り着いた「知の境界」を三つほどあげるのであれば、1「不確定性原理」、2「相対性原理」、3「不完全性定理」ということになるだろう。(理数系に話を限れば!)
 このうち、ゲーデルの不完全性定理だけは、その意味を把握することすら、門外漢には難しい。なぜならば、ゲーデルが成し遂げた偉業を理解するためには、まず、数理論理学なる学問をある程度まで学ばなければならないからだ。ようするに一般人には恐ろしく敷居が高い学問なのである。
 本書「不完全性定理」は、応用数学者が書いた入門書であり、ギリシャ時代に産まれた「証明」の基礎から始めて、集合論や論理学の概要を経て、最終的にゲーデルの証明までの流れを辿っている。
 著者は、時に辛辣なアイロニーを交えながら、毒のあるユーモアで読者の好奇心を刺激し続ける。
 もともと数学教育・啓蒙活動に一家言ある人であるだけに、著者が前面に出た、良い意味で個性色の強い入門書なのだ。
 文庫化にともない、ふたたび読み返してみて、あらためて内容の的確さと濃さに肝銘を受けた。強く、オススメしたい。

(ちくま学芸文庫・1100円)

(日本経済新聞 2006年6月28日掲載)