エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

命の番人
ジョナサン・ワイナー著
★★★★★

  仲のいい二人の兄弟がいた。兄は学者で弟は大工。筋萎縮性側索硬化症を発病した弟を救うため、兄は畑違いの遺伝子工学の世界に飛び込む。問題提起の作。垂水雄二訳

(早川書房・2500円) 


ファインマンの手紙
リチャード・P・ファインマン著
★★★★★

 伝説の物理学者ファインマンの書簡集。天才の心にじかに触れることができる。付録のインタヴューや解説も貴重だ。ファン必携の書。渡会圭子訳

(ソフトバンククリエイティブ・2800円)


「あっ!」と驚く動物の子育て
長澤信城著
★★★★★

 「チュン太チュン太、チュン太チュン太、食事だよ」
 本書は、巣から墜ちて、赤蟻が群がっていた瀕死の雀の雛を拾ってくるシーンから始まる。著者自身の体験談である。冒頭からいきなりジワッときた。
 やがて家族となったチュン太は、四年の寿命を全うして、今では剥製になっているのだが、ほんわかとした著者自身によるイラストとともに、ある意味、度肝を抜かれる展開だ。
 いわゆる動物行動学の本なのだが、さまざまな子育ての事例が紹介される。
 たとえば皇帝ペンギンは、鳴き方という絆で、数千羽の集団の中で親と子がきちんと出逢える。かと思えば、ユーラシアに棲むカッコウは、自分の卵を他人(他鳥?)まかせにしてしたあげく、カッコウの雛は、義兄弟の卵を皆殺しにしてしまう。そういった違いがすべて「進化」の結果というのは、不思議としかいいようがない。
 その他、身を挺して子を守る動物の習性や、ライオンやリカオンの子殺しの仕組み、さらには「学習」の秘密まで、まさに「題名に偽りなし」の好著だ。

(講談社ブルーバックス・800円)

(日本経済新聞 2006年6月7日掲載)