エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

人類が知っていることすべての短い歴史
ビル・ブライソン著
★★★★

  科学史の本。軽妙洒脱な語り口で、宇宙の始まりから生命の起源、そして人類への道のりを楽しく解説。著者と共に探求している気分にさせてくれる。楡井浩一訳
(NHK出版・3000円)


ポピュラーサイエンスの時代
原克著
★★★

 この本では、二十世紀を「ポピュラーサイエンスの時代」と位置づけ、日本、米国、ドイツのポピュラー科学雑誌を参考に、人類の欲望があぶりだされる。資料価値も高い。
(柏書房・2800円)


心と認知の情報学
石川幹人著
★★★★★

 「意識は、一万年前の一五〇人までの集団用にデザインされたものであり、現代の大規模なコミュニケーションにはうまく適応できていない。最近の情報ネットワーク社会は、さらに意識の役割を軽視する方向へと向かうことで、社会問題をひきおこしている」
 このような問題意識から始まる本書の特長は、博識な著者による、これでもか、というほどの豊富な研究成果の紹介である。
 たとえば、チューリングの機械、ソシュールの記号学、チョムスキーの生成文法、シャノンの情報通信理論。あるいは、デネットの生物階層、ポランニーの暗黙知、ペンローズのタイリング。さらには、パトナムの水槽の中の脳、ギブソンのアフォーダンス等々。参考文献の解説も懇切丁寧だ。
 著者は、量子論までも考慮した末に、
「意識は、コミュニケーションにおける他者と自己の仲介」
 と主張する。
 心の諸問題を「情報学」という切り口で鮮やかに整理整頓してくれる本だ。学術書かな、と思って読み始めたのだが、記述が平易で、ほとんど予備知識なしで読めた。

(勁草書房・2100円)

(日本経済新聞 2006年5月17日掲載)