エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ
上田一生著
★★★

  表紙の折り返しにあるように、まさに「異色の文化史」だ。ペンギンが人類と遭遇してから、数々の受難を経て人気者になるまでを描いている。多数の図版が楽しめる。
(岩波書店・2900円)


赤ちゃんはどこまで人間なのか
ポール・ブルーム著
★★★★

  「私の息子のザカリーは、四歳になる前にはもう肉欲以外の七つの大罪をすべて犯していた。」グイグイ引き込む心理学の好著。春日井晶子訳。長谷川眞理子解説。
(ランダムハウス講談社・2000円)


ノチョとヘイリ
水口博也著
★★★★★

 一組のイルカの親子がゆったりと泳ぐ姿が表紙となった、青く美しい写真絵本。
 表紙をめくってみよう。
「この本は、海のなかにある、もうひとつの国の物語です。」
 その言葉どおり、この本の中には「イルカのすむ海」という別世界が拡がっている。著者は、母イルカのノチョと娘のヘイリが群れの中で成長してゆく過程を、15年にも渡って観察した。
 ノチョの観察が始まって3年。ノチョは母親となり、その子はヘイリと名づけられる。そして、母子が蒼い海の中で寄り添う姿や、子イルカの成長過程などが、詩のように綴られてゆく。
 平易な言葉でイルカの生態も解説されており、親子で読める本としても、美しい写真集としても、万人にオススメできる。
 最後のページは、著者からのこんなメッセージで締めくくられる。
「ぼくはこの海が、イルカたちがずっと安心してすごせる海でありつづけるよう、願わずにはいられません。」
 この本を手に取り、イルカたちと彼らの海を見たら、誰しもそう思わずにいられない。私もその一人である。

(シータス・1500円)

(日本経済新聞 2006年4月19日掲載)