エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

〈心〉はからだの外にある
河野哲也著
★★★★

  生態学的心理学の本。著者は、世間で流行っている「自分探し」をナンセンスだと切り捨て、社会や環境との相互作用に心の在処を見出す。心が疲れた現代人の必読書。
(NHKブックス・1020円)


宇宙旅行ハンドブック
エリック・アンダーソン著
★★★

  スペースアドベンチャーズ社の社長が書いた宇宙観光パンフレット。22億円という旅行代金とロケットの強烈なGさえなければ私も宇宙に行ってみたい。小林淳子訳。
(文藝春秋・1762円)


あなたのなかのサル
フランス・ドゥ・ヴァール著 藤井留美訳
★★★★★

 不思議な本である。類人猿のチンパンジーとボノボの生態についての話がほとんどなのに、行間から、ヒトの生態や性質が見事なまでに伝わってくる。
 ボノボについては、比較的最近になって研究が進んできたらしい。ボノボは何事においても性行為によって群や個体同士の間を取り持つ。基本的にはヘテロセクシュアルだが、同性間での性的接触も頻繁にみられる。たとえば、食糧を得た時、強い個体がその食糧を独占するのではなく、まず性行為によって群内の緊迫感をやわらげてから、食糧を分配しあう。
 では、ボノボより身近な存在に感じられるチンパンジーはどうか。驚くべきことに、彼らは、ヒトがもつ残虐性や権力志向を見事に備えている。策略をめぐらせて群のトップのオスを惨殺してみたり、物陰に隠れて不倫(?)してみたりと、読んでいてゾッとする部分も度々だった。
 著者曰く、ヒトは「両極端な類人猿」なのである。「人間は地球上にいる動物のなかで、いちばん多くの内部矛盾を抱えた生きものだ。」
 ヒトとは、そもそも何なのか? 思わず考えこんでしまった。

(早川書房・1900円)

(日本経済新聞 2006年3月8日掲載)