エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

ファーブル昆虫記(第1巻上)
ジャン=アンリ・ファーブル著
★★★★

  昆虫ファンお待ちかねの完訳新訳版の第一弾。全二十巻なので本棚が一杯になりそうだ。美しい日本語と美しい装幀は割安感を与える。注釈や挿絵も懇切丁寧。奥本大三郎訳
(集英社・2500円)


純粋仏教
黒崎宏著
★★★★

  純化された仏教という概念を独自の視点から読み解く。著者は科学哲学者で、ウィトゲンシュタイン研究の第一人者。近年は西洋哲学と東洋思想の峡谷へ深く切り込んでいる。
(春秋社・2300円)


一般相対性理論
P.A.M.ディラック著、江沢洋訳
★★★★★

  本書を開いたとたん、あまりの衝撃に頭がクラクラした。今まで、これほど数学と科学に特化した文庫は見た憶えがない。文庫は判型が小さい。だから、細かい数式がびっしり詰まった本には不向きだ、というのが常識だったのである。
 新年第一弾としてご紹介する本書は、天才物理学者と謳われたディラックによる、一般相対性理論の教科書だ。アインシュタインの相対性理論には特殊と一般の二種類がある。このうち、特殊のほうは山ほど教科書や解説書が出ているが、一般のほうは、専門家以外には敷居が高い学問であり続けた。使われている数学が難しいからである。
 本書は、私が大学の物理学科に入ったばかりの頃に読んだ本で、長らく絶版になっていた。でも、最短距離で一般相対性理論のエッセンスを知ることができる、名著中の名著なのだ。
 そもそも読書という行為は「知的」なエンタテイメントのはず。この本だって誰でも楽しむことが可能なのだ。逐一数式を追う必要などない。
 数式以外の説明を読むもよし、一ヶ月ほどかけて少しずつ数式を解きほぐすもよし。実に爽快な文庫化だ。

(ちくま学芸文庫・900円)


(日本経済新聞 2006年1月5日掲載)