エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

視覚世界の謎に迫る
山口真美著
★★★

 人間の網膜は平面的な拡がりしかないのに、なぜ、奥行きのある立体像がわかるのだろう? それは脳が世界を構築するからだ。不可思議な視覚の心理学がよーくわかる。(講談社ブルーバックス・820円)


パリの獣医さん(上下)
ミシェル・クラン著 中西真代訳
★★★

 犬猫好きなら、サラリと読めてホロッとできる。
特に下巻は、「ペットと人間」を超えた動物たちとの素晴らしい関係が描かれており、胸を熱くしてくれる。(ハヤカワ文庫・640円)


「植物」という不思議な生き方
蓮実香佑著
★★★★★

 この本のミソは題名にある。「植物」という不思議な“生き物”ではなく、“生き方”となっているのだ。 
 病原菌や虫たちとの攻防、動物とは全く異なる呼吸のしくみ、菌類や虫たちとの巧妙な協力関係……そういった話題を、的確な比喩を駆使しながら解説してくれる。
 植物は花粉を昆虫に運んでもらいたい。だから、「あの手この手の誘客合戦を繰り広げている。」広告を使い、商店主組合を作り、サービス品を配ったりと経営努力を怠らない。
 しかし、サービス品である花の蜜だけを持っていかれたのでは、商売上がったりだから、花の蜜は、ひょいと手に取れるようになっているものは少ない。
 街のコンビニは、「売れ筋商品であるお弁当やドリンク類を巧みに店の一番奥に配置し、いろいろな売り場を通るようになっているところが心憎い。」だが、「植物だってスーパーやコンビニが思いつくくらいのことは、すでに実践している」のである。
 巧みな比喩に乗せられて読み進んでゆくうちに、いつのまにか、植物の“不思議な生き方”が頭に滲み込んでくる。

(PHP研究所・1300円)


(日本経済新聞 2005年12月8日掲載)