エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

イタチのchoppy旅にでる
石坂真希子著
★★★★

 知的なハンディをもつ人々の挿絵と主人公のイタチの旅の物語と数学が織りなすファンタジー。大学入試レベルの数学が扱われているのには驚くばかり。頭の体操に最適だ。(新風舎・1900円)


ヒトはおかしな肉食動物
高橋迪雄著
★★★★

 単なる雑学書に見えるが、一流の学問と経験に裏打ちされた、獣医学講義ノートである。ヒトが裸な理由から、馬が疾走し続ける理由まで、思わず納得させられてしまう。
 (講談社・1600円)


誰も読まなかったコペルニクス
オーウェン・ギンガリッチ著、柴田裕之訳
★★★★★

 作家アーサー・ケストラーによれば、(太陽中心説を提唱した)コペルニクスの『天球の回転について』は、ほとんど誰にも読まれなかった「空前絶後のワーストセラー」だったそうだ。
 本書は、そのケストラー説の根拠を調べてゆくうちに著者が発見した、壮大な知のネットワークについての報告だ。
 素人は、稀覯本の第一版のほうが第二版より価値があると思っているが、書き込みの入った第二版のほうが重要な場合も多い。全世界を巡って、書き込みの起源と変遷を辿るうちに、著者は、
「『見えない大学』、すなわち公の大学教育の枠外にあった一六世紀の天文学研究の情報交換の存在を示す、驚くべき確証」
 を掴む。その過程は「知的サスペンス」と形容するにふさわしい。
 雑学的な蘊蓄も豊富だ。たとえば、「大きい本ほど長く生き延びる」という書誌学の法則。ガリレオの『星界の報告』は、単に本が薄かったせいで、残存率が低くなり、希少価値が高いのだそうだ。
 読むのに一週間かかったが、本好きにはたまらない興奮を味わわせてもらった。もっと褒めたいが、紙数が足りない!

(早川書房・2300円)


(日本経済新聞 2005年11月17日掲載)