エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

皇帝ペンギン
橋口いくよ著
★★★

 フランス映画「皇帝ペンギン」のノベライズ作品。ドキュメンタリーや映像詩や美しい音楽といった映画の要素が、中編小説として見事に再現されている。写真もきれいだ。(幻冬舎・1238円)


ふくろうたちのひとりごと
大橋弘一著
★★★

 ふくろうの写真とコラム集である。野鳥写真家で自然環境の保全を訴え続ける著者のふくろうに対する愛情が伝わってくる。「森の賢者」の愛嬌ある素顔に頬がゆるむ。(中西出版・1000円)


暗号の数理
一松信著
★★★★

 小学生のころ、友だち数人で秘密結社をつくっていた。その名もJCIA。東西冷戦のまっただ中、大人の政治とは無縁だった僕たちは、暗号遊びなどを通じて、無邪気なスパイごっこに興じていたのだ。
 本書は、25年前に出た暗号解説書の改定新版だ。本棚から色褪せた旧版を引っ張り出してきて中身を比べてみた。
 第一章から第三章までは、いわゆる古典暗号の解説と歴史だ。シーザー暗号、コナン・ドイルや江戸川乱歩が作中で用いた暗号、第二次大戦中に使われたエニグマ暗号などのエピソードが楽しい。
 第四章と第五章では、安全なインターネット通信を根底から支える「公開鍵暗号」の仕組みが解説される。ここは、旧版と比べて、かなりの書き直しと書き足しが入っていて、アップツーデートな内容になっている。
 そもそも、どうして、暗号解読の「鍵」を公開してしまっても安全なのか? そんな素朴な疑問に明快に答えてくれる。
 第六章は旧版にはなかった部分で、未来の暗号として世界中で活発な研究開発が進んでいる「量子暗号」に割かれている。
 名著の歓迎すべき復刊である。

(講談社・900円)


(日本経済新聞 2005年10月20日掲載)