エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

素数の音楽
マーク・デュ・ソートイ著
★★★★

  物理学者が素粒子に魅せられるように、数学者は素数に取り憑かれる。天才たちの挑戦から現代暗号理論までを物語風に綴る。こなれた翻訳で、文系でも難なく読める。冨永星訳(新潮社・2400円)


もしイヌに風船をつないだら…?
マーシャル・ブレインとハウ・スタッフ・ワークス著
★★★

 いわゆる「もしも本」で、宇宙から心の問題まで、いまさら人に聞けない疑問の数々に科学的かつ茶目っ気たっぷりに答えてくれる。面白いので一気読みしてしまった。伊藤伸子訳(化学同人・1500円)


世界のネコの世界
千石正一著
★★★★★

 私は猫好き作家を自認し、自分のエッセイに「シュレ猫ロジー」という名前をつけて悦に入っているくらいだが、この著者にゃあ、かなわない。
 本書は、猫と自然を愛してやまない千石先生による、正真正銘の「ネコロジー(猫学)書」なのである。写真も愛嬌があるし、自然保護の話も勉強になる。
 千石先生は、インドネシアで出会った三毛猫に、こんなふうに接する。
「しっかり尾を立て近寄ってくるから、鼻をすりよせごあいさつしーの、のどをさすってごきげんうかがいーの、背中さすってグルーミングやりーの、ですっかり仲良くなる」
 猫馬鹿(失礼!)丸出しというべきだが、猫に関する文化的な蘊蓄にも事欠かない。たとえば、「ねこばば」については、
「猫の老女のようだが、漢字で書けば『猫糞』である。語源は字面からわかるように、猫が排泄の後にそれに土をかけて隠すことに由来する」
 てな具合で、いちいち頷きながらページをめくってゆくと、
「ネコの心はタイムマシンに乗る」
 と、詩的な表現に出会うこともしばしば。にゃんとも気分のいい本だ。

(海竜社・1900円)


(日本経済新聞 2005年9月29日掲載)