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エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊 |
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飄々楽学
大沢文夫著
★★★★
題名は「飄々と楽に学ぶ」というような意味であろうか。世界の生物物理をリードしてきた碩学による、飾り気のない回顧録。科学的な発見現場の知的興奮が伝わってくる。(白日社・2400円)
道具としての流体力学
山口浩樹著
★★★★
鮫肌水着、ゴルフボールのディンプル、フォーミュラーカーの車高、気象衛星から見たカルマン渦など、興味深い事例を巧く数式とからめて解説。松本洋一郎監修(日本実業出版社・1800円)
素数ゼミの謎
吉村仁著、石森愛彦絵
★★★★
不思議なセミの生態に数学の視点から迫った、異色の科学書。
たまたま『ファーブル昆虫記』を読み直していたせいか、本屋さんの店頭で表紙に目が留まり、即購入。半日かけて一気に通読してしまった。
そういえば、ヤンキースの松井選手が、試合中にセミの大群に襲われて閉口しているニュースを見た憶えがある。あのセミが「素数ゼミ」だったのか。
素数ゼミは、アメリカの東部・南部に棲息し、十三年または十七年ごとに大量発生するセミである。日本のミンミンゼミの半分くらいの大きさで、羽のたたみ方もちがい、赤目が特徴だ。
それにしても、なぜ、十三年と十七年なのだろう? どうして、十八年とか十四年ではダメなのか?
謎の発端は氷河期にまでさかのぼる。素数ゼミの祖先は、凍てつく地中で必死に生き延びようとがんばっていた。その悪あがきと「素数」のもつ特殊な数学的性質が重なって、奇跡は起きた。そして、謎のキーワードは「最小公倍数」。
ミステリー小説の鮮やかなトリックに思わず拍手喝采……そんな読後感であった。
(文藝春秋・1429円)
(日本経済新聞 2005年9月8日掲載)
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