エンジョイ読書 目利きが選ぶ今週の3冊

ろうそく物語
マイケル・ファラデー著
★★★★

 ろうそくという身近な物を通じて「科学する心」がわかる。これまでにいくつもの邦訳があるが、本書は、とても読みやすい。伝説的なクリスマス講演録。白井俊明訳。(法政大学出版局・1800円)


年寄りの話はなぜ長いのか
高田明和著
★★★

 食べ物や座禅を通じて、うつ状態や脳の老化を防ぐことを提唱している著者による本。医学的知見と人生論がほどよいバランスで語られ、若い世代にも大変参考になる。(東洋経済新報社・1400円)


E=mc2世界一有名な方程式の「伝記」
デイヴィッド・ボダニス著 伊藤文英・高橋知子・吉田三知世訳
★★★★★

 私のような戦後世代の人間でも、毎年八月がくるたびに、広島と長崎に投下された原爆の恐ろしさに身が震える。
 原爆の原理は、アインシュタインが発見した、「E=mc2」という五文字の方程式に秘められている。
 本書は、今から百年前に発見された「世界一有名な式」の正真正銘の「伝記」なのだ。たとえば、光の速度を意味するcという記号の伝記は、こんな具合である---。
「光速(the speed of light)にこの意外な文字が当てられたのは、一七世紀半ば、イタリアが科学の中心で、ラテン語が用いられていた時代に対する敬意の表れだろう。celeritasはラテン語で『敏速』を意味する」
 もちろん、数式だけでなく、それを発見したアインシュタインや、発展させた科学者たちの悲喜こもごものエピソードがふんだんに紹介される。
 オックスフォード大学で科学史を教えていた著者の博識ぶりと文章運びの巧さに感心しつつ、巻末の注釈まで、一気にもっていかれてしまう。
 ふだん科学に馴染のない読者も、この本を読めば、世界一有名な式の真の意味が理解できるにちがいない。
(早川書房・1900円)


(日本経済新聞 2005年8月18日掲載)