●第2章 左脳ホテル

P52〜 脳の領域

脳を機能解剖学的に区分すると、大脳、基底核、間脳、小脳、脳幹の五つに分かれます。これに脊髄を加えたものをいわゆる中枢神経系と呼びます。大脳は神経細胞の細胞体が集まっている大脳皮質と、神経線維が集まっている大脳白質から構成されます。大脳皮質には、高次機能に関わる新皮質と本能活動にかかわる辺縁皮質とに分類され、辺縁皮質と関わりの深い領域を「(大脳)辺縁系」と呼びます。また、大脳新皮質は機能が領野ごとに局在化しており、高次神経機能の中枢が集まっています。もちろん、厳密に一つの領域に機能が局在しているとは言えない部分も多数あります。

以下、代表的な領域の関係性を描いた図を掲載しておきます。言葉でいろいろ説明するより、図を見たほうが理解が進むかもしれません。主に本文に出てきた領域をピックアップしています。図中の 〜 は本文の「三つの脳が重なっている(P52 5行目)」に対応しており、文中に出てきた順に番号を振り当ててあります。



※解剖学上、大脳(終脳)、基底核、間脳をあわせて大脳と呼ぶことがあります。このときは、脳全体を大脳、小脳、脳幹の3つに分けることになります。

P66 ブロードマン客室

ブロードマンによって区分された大脳皮質の領野は 52(48〜51は欠番)に及びます。各領野の境界線は必ずしも大脳溝と一致していませんが、これらの皮質領野とその機能の間には密接な対応関係が見られるのです。だか らといっても、完全にブロードマンの領野と機能局在が一致しているわけではありません。たとえば、感覚性言語野であるウェルニッケ野は、上側頭回の後部から角回にかけての、22野の後部などを指します。運動性言語野であるブローカ野は第三前頭回の後方に存在し、ブロードマンの44、45野に相当します。構造と機能は連関することが多いのですが、必ずしも完全な対応関係ではありません。

P78 第1行

「あと二部屋ほど言語に関するお部屋がわかった」とは、側頭葉から頭頂葉にかけて広がる下頭頂小葉の角回・縁上回(ブロードマンの3 9、40野)を指していると思われます。この部位は広義的にはウェルニッケ野に相当し、感覚性言語野に含まれますが、特に読み書きの中枢になっています。この部位の機能が失われると、失書、失読のような障害が見られるのです。

P82〜 脳の中を見る機械

脳を検査する手段として、脳波図(EEG)、磁気共鳴 画像(MRI)、コンピュータ断層撮影(CT)、ポジトロン断層撮影(PET)を使用する方法 が紹介されていますが、それぞれ目的に合った特長があります。EEGは脳内の神経活動をミリ秒オーダーという細かいタイムスケールで追跡することが出来ます。MRIとCTは詳細な 脳断面画像を取得することが可能です。MRIとCTで比較されることがよくありますが、MRIは X線による被爆がない、画像のコントラストが高い、CTは検査時間が短い、ペースメーカーなどの金属使用者でも検査可能という長所があります。PETは細胞の糖代謝の程度を可 視化することが容易で、腫瘍の悪性度を診断することができます。

医療用ではありませんが、MRIには特殊な使い方をす ることで、脳の活動部位を同定する手法があり、脳機能を研究する上で重要な役割を担っ ています。そのような手法をfMRI(機能的磁気共鳴画像法)と呼び、非侵襲的に脳の活動 を記録して、脳のどの領野がどんな機能を持っているかを調べることができるのです。

●第3章 僕の写真屋さん

P103 10行目

本文では、左右の第一次視覚野同士がドアで通じていますが、この場所でお互いの視野情報を交換することはできません。右視野は左脳で、左視野は右脳で、それぞれの半球で高次視覚連合野まで処理され、最終的には脳梁を介して両視野の情報を連結しています。そう考えると、右と左の視野の境界線が真ん中に存在するはずですが、その不連続性を感じさせないように、うまく映像を処理しているようです。